意外にも再現性が高かった

 20時退勤。あつかう製品市場にいろいろあって臨時業務が多く、予定作業にとりかかれるのが夕方から、みたいな毎日だ。でもきのう午後半休をとっていたおかげできょうは定時を過ぎて仕事にキリがついてなくても腐る気持ちはなかった。まあ残業と引き替えの休暇にしてはいけないのでその前向きさはまずいのだけど。
 まだ退勤連絡をしてきてない夫へ「た、た、た、退勤だ~~~!」と、「大変だ~~~!」みたいな感じでこちらの退勤連絡を送ると、5分後にむこうからも"退勤"の2文字が送られてきた。ふたりともそれぞれ帰りの電車に乗れたことを報告しあう。同じ路線で乗車駅がちがう。
 18時ごろに発生した人身事故とやらで大幅な遅延が発生しているようで、20時をすぎてもダイヤに乱れがあるとのことだった。"人身事故"は乗客同士のトラブルを指す、みたいなことをいつか職場の雑談で聞いたことがある。本当かどうかはわからないが、"人身事故で遅れが"と案内されるたびに、トラブルのあった車両に乗り合わせた乗客、遅延に巻き込まれた人々、鉄道会社の人々のイライラを一挙に受けとったような気になって「お疲れさまです……」とあてのないいたわりが浮かぶのだった。停車駅ごとで様子を見るようにしばらく止まる電車の中で、別の電車に乗る夫とお互いに進んだ駅を連絡しあう。
 わたしが先に地元駅につき、スーパーでうどん玉などを買っているとほどなくして夫もあらわれ、会計をすませて一緒に出る。ローソンに寄り、夫はアイスを3個買い、わたしはポテトチップスを2袋買った。道を歩きながら夫がわたしに"ワッセ、ワッセ、ワッセ、ワッセ"と一定のリズムで言いつづけてくれと指示してくる。どういうことなのかわからないが素直にワッセ、ワッセ、ワッセ、ワッセと言いつづけてみると夫は、ドゥン、ドゥン、ドゥン、ドゥクドゥンドゥンドゥンドゥン、とベース音のようなものを口で刻みはじめた。予期せぬセッションのはじまりに驚きながらなおもワッセ、ワッセと言いつづけていると夫のベース音に展開のようなものは多少はあったがメロディと思えるものがいつまでも登場せず、1分ほどそうしてワッセとベース音をつづけたところで前方から人が歩いてくるのが見えたのでしだいにふたりの口演奏は消えた。今のはなんだったのかと訊くと、ドイツのバンドにそういう曲があるのだと夫は答えた。もう1人必要だったな、と夫はつけくわえる。
 帰宅し、靴を脱ぎバッグを置く勢いで服も脱ぎシャワーを浴びた。5月半ばでもう夏の定番コースを実行している。わたしが出ると交代で夫も浴室に飛びこみシャワー。今年初のバブシャワースーパーエクストラクールを使った、寒い寒いとうれしそうに出てきた。夕飯はカレーうどん。きのうカレーを作っており、鍋を洗いやすくするためにも作った翌日はカレーうどんと決めている。カレー鍋へ茹でたうどんとお揚げ、だしつゆなどを注いで温めるだけなので簡単。いまシャワーを浴びたばかりのふたりで汗だくになって食べた。窓からの夜風が気持ちよい。

 食後、夫にさっきのドイツバンドの曲は本当はどんなものだったのかと正解をたずねると、CANというバンドの『SACRILEGE』というアルバムから「……"AND MORE"」という曲を聞かせてくれた。
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 さっき言われるがままにおこなった我々の口演奏は意外にも再現性が高かったことを知る。もう1人いたらどの音を任されていたのだろう。