つづく人生のなかで読んでいこう

  • 3月16日(水)

 23時半すぎ。地中を龍が近づいてくるかのような地鳴り。もしかしてこれで人生終わるのかも、と一瞬だけ思った。
 2つめの地震は大きく長かった。わたしは立ち上がり、家具がもし倒れてきても当たらないところの壁につかまり立って、揺れが止まるのを待った。これまでの地震を体が忘れているだけかもしれないが、体験したことのない揺れに思えた。まだ揺れている。国際情勢などもよぎって、これは本当に地震か?と疑いもした。揺れの最後のあたりに部屋のどこかがミシッと鳴り、ぞっとする。


 揺れがおさまる。さいわい家具は倒れず、転倒防止の突っ張り棒をかましている本棚から数冊落ちた程度で済んだ。都内でも停電はあったようだが我が家は無事で、余震におびえながらも他にできることがないので、寝ることにした。

* * *

  • 3月17日(木)

 朝7時半。杉並区の実家に電話をする。めずらしく父が出た。父も母も家もぶじだったと聞き、他に話すこともないので20秒ていどで電話をきった。その1時間後に実家から電話がかかってきて、でると母親。さっき電話したときにはまだ母は寝ていたようで、電話くれたんだってね、地震こわかったね、そっちはどうだったの、ところで『鎌倉殿の13人』の義経はさあ、と話してきて、とても元気なことがよくわかった。

 在宅勤務。音声会議に出ると、しばしば周りに対して(わたしにだけでなく、上下なく誰に対しても)きつめの言い方をする人が、ゆうべの地震は怖かった、うちは停電した、ちょうどキャンプ用にランプを買ったばかりでそれを使った、寝るのが怖くて2時ぐらいまで起きていた、と会議の本題に入らずしばらく地震の話をつづけていた。

 仕事を終え、おなじく家で仕事していた夫に声をかけてふたりで手分けして風呂と夕飯のしたく。れんこんと牛肉を塩で蒸し煮して粒コリアンダーパクチーをあえたものを食べる。オリオンビールによく合う。
 夕飯を食べながらNHKラジオアプリの聴き逃し配信で『カルチャーラジオ 文学の世界』の町田康「私の文学史」をきいた。その回のテーマは井伏鱒二で、『掛持ち』という小説を例に井伏鱒二が描くユーモアなどについて話していた。その小説をわたしも夫も知らず、井伏鱒二といえば『山椒魚』と『黒い雨』ぐらいしか知らないな、『掛持ち』読んでみたいねと言いあう。
 わたしは実家が杉並区ということもあり子どもの頃から”荻窪の文豪・井伏鱒二”の存在を聞かされていたし家にも著作が並んでいたが、そういえばそれらを読んでこなかったなと思い返す。つづく人生のなかで読んでいこう。
 夫が、”その小説家の代表作としてはとりあげられないけど代表作に劣らずおもしろい小説”の例として夏目漱石の『坑夫』の話をしてくれた。

 今夜のテレビは『ダウンタウンDX』が地下芸人、『アメトーーク!』が「第七世代、その後…」とどちらも惹かれる特集だったが、テレビを見る気力が残っておらず録画予約を確認して22時に就寝。