当てたいんじゃなくて、応募できるぞと思うのが楽しい

 「これもう応募できるんじゃない?」夫が冷蔵庫に貼られたビニール袋を指さす。明治R-1ヨーグルトドリンクの赤いラベルの、「R-1」の文字部分だけを切り取ったものが50枚ぐらい入った袋だ。我が家はR-1ヨーグルトドリンクの宅配を利用している。R-1ヨーグルトは例年、冬から春になる時期にプレゼントキャンペーンを開催しており、今年もそうなので応募条件となるラベルの「R-1」部分を集めている。冷蔵庫には、その”ラベルあつめ袋”を貼ってある。
 そう、もう応募できるのだ。だが、じつは今回の賞品に今の自分が「ほしい!」となるものがなく、応募の作業(指定の枚数のラベルを応募専用封筒に入れ、必要事項を書いて、切手を貼り、ポストに投函)に移るモチベーションが上がらない。どれも良い品で、あれば便利・快適だろうなとは思いつつ、これ以上家にモノを増やしたくないし、本当に必要なものなら懸賞でなく吟味して自分の金で買ったほうが良い、当たっても持て余すかもしれないなと思ってしまう。
 そのような葛藤があることを打ち明けつつ、夫から指摘されるよりも先に「じゃあなんで集めてるかって? 応募したいんだよ、懸賞に。いつも買ってるものにプレゼントキャンペーンが発生した。無理をせずとも応募券がたまる。このチャンスを活かしたい。賞品を当てたいんじゃなくて、応募できるぞと思うのが楽しいんだ」と弁解した。すると夫は、大事MANブラザーズバンド『それが大事』のBメロの部分を歌いながら台所を去っていった。

 朝刊を、見出しと概要だけでも把握しておこうとめくるがそれだけでも読み終えるのに1時間以上かかった。ロシアのウクライナ侵攻が止まる気配はないのかを求めて読むが、事態は悪化しており、恐ろしくなる。日本国内もいろいろとあって厳しい。

 一気に春の陽気。家じゅうの窓をあけてふたりで掃除フェスを開催したあと、うどんを茹でて食べ、たまった過去の新聞を消化していると宅配が届いた。湖池屋の工場直送便ポテトチップスだ。さっそく1袋あけ、ふたりで交互に袋に手をつっこんで芋の味のうまさを確認しながら夢中で食べた。

 夫と散歩がてらに食材買いだし。週末は贅沢品を買っていい自分ルールがあるのでまずは成城石井に向かう。わたしが京都醸造のビールの新しくでた2種類をカゴにいれると、夫もなにやらご当地ビールやご当地ジュースをカゴに入れてきて、わずかに旅行気分を味わった。洋総菜の店でハンバーグとじゃがいもにハーブやベーコンがのったおしゃれなおかずを買い、いつものスーパーでそのほかの定番食材を買い、最後にたまに行くパン屋まで足をのばしてパンを買ったらレシートに巨人師匠があらわれた。


 買った総菜やパンとワインで夕飯を済ませ、わたしはとある演劇の配信を観る。Twitterで評判を見かけて観てみたが、自分にはピンとこなかった。そういうこともある。

 寝床に移る。面白さをわかろうと気負って配信を観た疲れからか、はああ、とため息が出てしまった。ゲームをしていた夫は「ため息ばっかり!」と何かを模したような声色で言ってみせた。ぽかんとしているわたしに夫は「伊達公子のマネ」と言い添える。テニスの試合でショットがミスとなるたびに観客が「ああ~」と声をあげて残念がり、それにいらだった伊達選手がそう叫んだのだと説明を受けた。爆笑問題の太田さんが一時期よく言っていたのを思いだした。