出かけたいボルテージが抑えきれず家の中にいられない

 夜の花火があまりにたのしみで、朝からコンタクトレンズを入れていた。出かける2時間も前から化粧も済ませていたし、夫と目があえばニヤ〜と笑った。

 時間がきて、そろそろ行くかとの夫の言葉に、わたしは決めていた服に即時に着替え、靴も履いて家も出て、夫がしたくを終えて出てくるのを玄関の外の郵便受け前で待った。いつも出かける直前にぐずぐずして夫を待たせるわたしにしては珍しいことである。週末の朝など、たまに隣家の小学生兄弟が、玄関前の車止めの棒に巻きついたり止めたままの自転車のサドルにまたがったりして、親御さんが出かけるしたくをすませて家から出てくるのを待っている姿を見かける。あのときの彼らと同じ状態にいまの自分はある。出かけたいボルテージが抑えきれず家の中にいられないのだ。

 翌日には関東も大雨になると聞いていたので降らなければラッキーぐらいに思っていたが、空に雲ひとつなく、空気も乾いている。風は少しひんやりしていて気持ちよい。このうえない花火日和である。

 隣の球場の内側に書かれた「明治神宮野球場」の文字が見えるビアガーデンに着く。食べ放題、飲み放題。フードはスタッフの方が持ってきてくれて、ドリンクは自分でつぎにいく形式だ。保冷ビアマグを渡される。ドリンクサーバーはキリン系の6種類のビールのほか、ウイスキーも3種類、レモンサワーはふつうのと無糖があり、ワイン赤白、ウーロン茶にみかんジュースとりんごジュースがあった。夢の空間。フードはバーベキューを中心としていて、肉の盛り合わせは牛と豚とラム肉。サイドメニューに枝豆やフライドポテトや焼きおにぎりやアイスクリームまであるのがうれしい。花火が打ち上がり始まるまでに集中して飲み、食べた。鉄板に張りついていたので暑かったが、ふとした瞬間に神宮の木々を抜けてきた夕風がとおる。緑をくぐった風は涼しさが格別だ。

 あと3分で花火が上がるという頃に入院中の母親から電話がかかってくる。出ると、母がいる新宿の病院からも神宮の花火が見えるらしく、いま談話室で待機しているとのことだった。それはよかった、いっしょに見ようと言う。目の前で花火が打ち上がり始めてからも何度か母から電話とLINEメッセージがあり、「いま赤と緑のが見えたよ」など病院の窓から見える花火を実況してくれた。