ひも

ここにきて、急に、ひもが必要になってきた。


* * *


先日、健保から配付されたくすり袋の中に万歩計が入っていた。ちょうど自分で万歩計を買おうと思っていた矢先だったので、とても嬉しかった。
しかもオムロン。「無論、オムロン。」の、オムロンだ。
その万歩計はなかなか高機能で、単純に歩数だけでなく「何分間連続で歩き続けたか」を記録し、ここから消費カロリーを算出したり、時計がついていて毎晩24時で歩数を自動リセットしたり、1週間前までの歩数履歴を確認できたりと、あの手この手で徒歩欲をかきたてるスグレモノであった。「無論」と胸を張るだけのことはある。
だがこの万歩計、驚くことに、そのまま身につけることができなかった。
本体にクリップなどはついておらず、代わりに、なにか細長いものが通せそうな穴だけがあいている。「無論」、その細長いものも付属されているだろうとパッケージをさかさにして振ってみたが、出てきたのは電池と説明書だけだった。
この万歩計に己の歩みをカウントしてもらうには、なにか細長いものを用意してこの穴に通し、首から提げたりしなければならない。


ひもが必要だ。


* * *


先週金曜の矢野顕子×上原ひろみライブで、二人の連弾の様子を撮ったポスターを手に入れた。
ポスターを買ったのは初めてだ。
帰宅して、さっそく広げた。早く壁に飾って、二人の笑顔で部屋を照らしてもらいたいと思った。
いい額縁がほしい。


雨と風の土曜の夜、渋谷のLoftで額縁を探した。
額縁の購入経験も少ない私。額縁ってそういえば高いんだった、と知らされて、店内で少し戸惑った。軽さやら色の豊富さやらセット方法の手軽さやらなんかでいろいろと値段のランクが分けられていたが、とにかく今となってはもう、額にさえなっていればそれ以上こだわらない。その並びでは安いほうの、金色のフレームのを選んだ。
こだわりはしなかったが、帰ってポスターをセットしてみるとコレガヤハリなかなか良い。中味がいいから額縁もよく見える。さてどこに飾ろうかしら、と機嫌良く部屋の壁を見回しながら抱えている額縁の背中をまさぐる。
しかしそこでふと、彼の背中にはなにもついていないことに気がついた。
これでは壁の画鋲にちょらっとひっかけることができない。そもそも、額縁というのはどういう仕組みで壁にかかっているのだったか。
そのとき私の頭に、うっすらとLoft店内での記憶が浮かんだ。こだわらなかったので見流していたが、たしか高いほうの額縁には、壁にかけるのに便利そうな、細長い付属品があったような。
再び手元の額縁の背中を確認する。カドの三角リングが「どうするの?」と首を傾げて私を見ている。


ひもが必要だ。