カニとすき焼き、ダブルでちょうだい

昨日の昼休み、母から電話で「カニ買い過ぎてさあ。食べにおいでよ」と唐突に招かれた。
しかし仕事のキリが読めなかったので「うーん早く帰れたらね...」とモゴモゴ返す。すると母は「早く帰ればいいのよ、カニなんだから」と。「カニなんだから」って、なんの理由にもなってないのだが、娘は「ああそうか、カニだもんね」と母の調子に合わせて電話を切った。
午後。母の言葉に影響されたわけではないのだが、今までプスプスとくすぶり溜まっていた仕事たちが、急に太い道でも開通したかのように次々と片付いていった。もちろん数日間の作業の積み重ねがそれぞれの案件を完成に近づけていたのだけど、でももしかしたらカニのために張り切って仕事の効率が上がってるんじゃないか、などと思い始めたら娘はおかしくてたまらなかった。あと、本当にカニが楽しみになってきていた。
そして定時で帰れることになった。たしか、定時に帰るのは今月初めてのことだ。
実家へ向かう道で「そっちに行くよ」と電話をすると、こんどは母、「あのさあ...カニとすき焼き、どっち食べたい?」と、またも唐突に。

娘「え、カニ食べるんじゃないの?」
母「お父さんが肉食べたいって言うから、すき焼きも用意したんだよね。でもカニもあるんだけど」

なんだろうこの人たち。自由すぎる。勝てない。
カニは食べたい。カニのために仕事をがんばった(ことになっている)。今夜カニを食べなければこの口も腹も許してくれないだろう。
でもすき焼きも食べたい。今そこにあると知ったからには食べたい。

娘「......じゃあ、カニとすき焼き、ダブルでちょうだい」
母「え!......あ、うん。わかった」

実家に着くと、食卓には本当にタラバガニとすき焼きが乗っていた。
父と母と娘は、大きなタラバガニを眺めながら前菜のすき焼きをいただき*1、腹六分目ころにカニ鍋へ切り替え、茹で上がるタラバガニの足を柚子しょうゆにつけてはモリモリと腹十二分目ころまで食べた。


贅沢は唐突にやってくることがある。むしろ唐突でなけりゃ、こんな贅沢、許容できない。
カニの殻の山を見つめながら、母は「ひろこがどっちも食べるって言ったとき、びっくりしたっけなー」とつぶやいた。

*1:ところでなぜ、カニを眺めながらすき焼きを食べるおかしさに家族3人とも疑問を持たなかったんだろう。すき焼きの牛肉もじゅうぶん主役級だったのに、申し訳ないことをした