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勉強できる子卑屈化社会

 12/9放送の『タモリ倶楽部帝国書院特集で、地図帳を見ているとき、ゲストの能町みね子さんが「わたし、この……"日本の市と人口"のページを……(学生当時)ほぼ……おぼえてしまって」とおそるおそる言った。両端にいたタモリさんと小峠さんは声を揃えてエーッと驚いていたが、テレビの前のわたしは「心得ております」と思ったし、能町さんをかわいいと思った。無邪気な子どもに思うように。『勉強できる子卑屈化社会』を読んだばかりだった。

勉強できる子 卑屈化社会

勉強できる子 卑屈化社会

 "勉強できる子"がいかに周りから軽率に居場所をとりあげられてきたか、といった問題提起から、その原因分析と打開策まで、かろやかに穏やかに、しかし切実に訴えている。あるある本のつもりで気軽に読みはじめたし、おもしろいのでサクサクと読み進むが、これはかなり本気の教育書だと思う。
 "勉強ができる"のは、運動が得意、絵を描くのが得意、などと同じく一種の才能であり個性である。野球が楽しいと感じる子が、もっとうまくなりたくて練習する。ものを知るのがおもしろいと感じた子が、目の前にある教科書を読み込んでいく。どちらも好奇心や向上心の延長にあることなのに、なぜか"勉強できる子"だけは他の個性を持つ子とちがって悪役を担わされる。その「なぜか」をこの本ではとても丁寧に考察していて、日本で生活しているといかに念入りに「勉強ができる=いやな奴=否定してよい」の刷り込みを受けているかを知る。
 その考察も、("勉強できる子"としてあんなに理不尽な思いをしてきたはずなのに同レベルでやりかえさず)誰かを集中して責める書きかたをしていないのがやさしいし、賢い。それは著者が「敵を作って戦いたいのではなく、問題をなくしていきたい」と目的を見据えているからだろう。勉強する人(知ること、考えることを厭わない人)は、理不尽さに対してこういう手段がとれるということもよくわかった。本当の賢さはやさしさになる。
 ところで、本書のイラストとインタビューゲストが彼女だからというわけではないが、この本の賢さとやさしさに、能町みね子『雑誌の人格』を思い起こした。『雑誌の人格』は「どんな生き方であれ、誰もが"よく生きたい"と願い、己を心からないがしろにする者はいない」といった毅然としたやさしさが浮かび上がってくる、人類肯定に満ちた本だった。わたしはそう読んだ。『勉強できる子卑屈化社会』も、勉強云々にかぎらず「どんな境遇でも"傷つけていい人"などいない」という、ただただ真理に収束していく。本当の意味での機会の平等を認めよう、として掲げられた219ページの5行には思わず涙を落とした。
 そのようにひたすら「勉強ができる子を否定しないでほしい」と訴えながらも、しかし後半では勉強ができることで居場所をなくしている人にむけて「あなたは得意なことを褒められず理不尽と思うかもしれないが、ではあなたは誰かを褒めているか?」と投げかけているのも良かった。あなたが誰かのいいところを見つけて褒めれば誰かもあなたを素直に褒めるだろう、あなたの不遇は(考えるのが得意なあなたにとって)単純な理屈で解消できる、と説いているのがイカしている。
 あとは、そうだな、神田うの佐々木恭子アナにも好感を抱いたし……。とにかく例の多さとその幅が圧巻で、偏りのない収集とブレない考察に、なるほどこれが"勉強好きな子"の書いた本なのか!というおもしろさもあった。精神的にとても大人な本なのだけど、これをまとめあげる作業には子どものような見境ないパワーを思う。
 だから、この本を読んだあとに見たテレビで能町さんが「日本の市と人口をおぼえた」と言ったときに、わかります、衝動ですよねと承知して、そんな能町さんをすごいなーと感心しながらも無邪気でかわいい、と思ったのだった。虫眼鏡で昔の地図をいつまでも眺めているタモリさんもいとおしかった。
 この本は、現役あるいはかつての"勉強できる子"本人以上に、"勉強できる子"がクラスにいる人や、親戚や知り合いの子など無責任な間柄にいる人こそが読むべきで、つまり各世代の全日本人が読むべきではなかろうか。

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 それにしても『タモリ倶楽部帝国書院特集は良かった(以降は番組の感想)。わたしは誰であってもキレ芸が苦手で、だから番組に小峠さんが出てきたとき「うわ、あまりキレませんように……」とひるんだのだけど、タモリ倶楽部には小峠さんの怒りを煽る役がいなかったからか、地図に興味がないという小峠さんは進行に障らぬていどの適切な興味なさを発揮していて、声を荒げることがなく、場が盛り上がれば気持ちよく笑い、その笑い方が妙に男前で色っぽかったので「あっ、この人モテるだろうな」と思った。タモリさんも能町さんも、地図大好きのワクワクがあふれていて本当にかわいかった。
 大正時代の地図をタモリさんと能町さんが熱心に虫眼鏡で見ているとき、手持ち無沙汰な小峠さんに対し新人のアナウンサーが「小峠さん、なにか……気になることありますか?」ととつぜん振った。「……ない、ですね」と小峠さんが答えるとみんなデショウネ〜という感じで笑ったのだが、そのときタモリさんだけは笑わずに、持っていた虫眼鏡をサッと小峠さんにむけて覗いてみせたのが良かった。