クイズ・DAIGOの嫁

  • イワシの梅煮
  • ツナじゃが
  • 小松菜とあぶらげの煮浸し
  • 牛肉そぼろとひじきピーマンの炊き合わせ
  • はちみつ味噌たまご

 定刻に退勤。憂鬱になる。いま家主が忙し期で、相対的に自分が夕飯を作る番なのだが、いま自分は炭水化物控えダイエットを試しており、ひとまず夕飯では米パン麺とビールは摂取しない、と先週から決めている。レシピアプリを覗いても「これも米に合いそう、これも米ドロボウのやつ……」と米を食べないことが悔やまれそうなおかずばかりでなかなか献立が決まらない。そんなに悩むならむしろ米を食べて適度に運動したほうがよっぽど有効に減量できるかもしれない。
 スーパーで大ぶりのイワシが安かった。刺身でもオススメとのことで新鮮なのだろう。魚料理なら肉料理より比較的、米飯の必要性が弱まる気がする、ときげんよく4尾買う。小松菜も安い。自分は飲まないが米抜きにつきあってくれている家主のためにビールも買い込む。
 イワシをメインのおかずにするなんて大人みてえだな!とスーパーの袋を前後に大きく振りながら帰宅、玄関の前。バッグを探る。……ない。鍵がない。朝は自分のほうが出るのが早く、持って出るのを忘れたらしい。家主にメッセージを送る。

鍵を持ってでるの忘れた!
いま生のイワシ持ってる!

 家主から、急いで帰る、との返事。忙しい家主をごちそうでねぎらおうと思ってたのに、家主を仕事からひきはがしてしまった。生のイワシで。

 そして結局、夕飯も家主がつくった。自分は野菜の皮をむいたり家主が使い終えた調理器具をすぐ洗ったりと完全にアシスタントとなる。刺身でも食べられるはずだったイワシは、買ってから1時間ほどスーパーの袋に入っていたので(冷えたビールで囲むなどして保冷は試みたが)、やはり火を入れたほうが良かろうということで梅煮を提案した。梅煮を初めてつくるらしい家主。レシピどおり大量のショウガや梅干しを投入しながら、へえ、ほお、となにかを心得ていた。
 イワシの梅煮は最高においしかった。やはり新鮮だったらしく身がぷりぷりで、味もすこぶる良い。あんなに大量に入れた臭み消しのショウガや梅干しも、すっかり役目を果たしたのか、フルーツのように単体でも食べやすいまろやかな味になっていた。家主は、もう味つけで失敗をしなくなったな、とイワシをかじりながら満足そうに言う。ショウガも梅干しも入れる意味がわかる、レシピに並ぶどの調味料も何に作用しているかわかるようになった、としみじみと言う。すばらしいことだ、頼もしいことだよ、とわたしは家主を讃えた。

 夕飯後、ドラマ『家売るオンナ』録画を見る。千葉雄大くんと工藤阿須加くんの探偵ごっこが必要以上にあって、かわいくて内容に集中できない。男の家主でさえ、かっ、かわいいな……とつぶやいていた。観おわってわたしが、この、主役の三軒家チーフをやってる、……とまで言いかけて、主演女優の名前が出てこなくなった。いま、直前に、エンドロールで名前が先頭に流れていたのに(まさか忘れるとは思っておらず、よく見てなかった)。「あれ、この、主演の人、名前なんだっけ」と家主にへらっと投げかけると、家主はしばし黙ったあと、……なんだっけ……と顔を上げた。知りたいなら、いま止めた再生を数十秒戻してエンドロールを見れば済む。のに、わたしも家主もそれをしなかった。当然ふたりともネットで調べようともしない。ただうずくまり、五十音を「あ」から順に言ってみて、紙に「DAIGO♡___」と書き、空欄になにが入るのだったかと悶え、彼女の出演作を思い出せるだけ言いならべる。わたしが「井川とか、井上とか、たしかそんな苗字」「拗音が入る名前なんだよ」と名前の字面の印象を言ってみるがなんのアテにもならない。誇張なく、30分ほどのたうちまわった頃、家主が、けい……けい、って音が入ってた……とつぶやき、わたしが「けいこ!! 北川景子!!!!」と言って、ど忘れ地獄から脱することができた。途中、わたしが出した「拗音が入る」というヒントは、彼女の夫の「ウィッシュ」のことを言っていたのでは、と家主に指摘された。