ヒーローになるとき

帰り道。
駅前の横断歩道。
信号待ちの人、人、人。
この時間にしては人が多いような気がした。
暖かいからみんな夜遅くまで出歩くようになったのだろうか。


そんなことはどうでもいい。
ぼーっと立ったまま、電話をしながら、メールを打ちながら、人々は待っていた。
私も待っていた。
待っていた。
待っていた。
待って、・・・・・・
横断歩道の前に人がたまっていく。


ふと私は、信号の柱にくくりつけられている薄汚れた札に気がついた。
「夜間押しボタン式」
やられた。


しかしこの動揺を周りに悟られてはならない。
私はボタンにそっと近づき、赤い信号を見据えながらぐいと押した。
うしろにいた男が「ああ、」と声を出す。
まもなく信号は青に変わった。
ざっ、と歩き出す人々。


今夜、私の知恵と勇気が人々を救った。