晴々とした心持ち

 15時半まで自宅で仕事、そのあと会社へ物理的に出勤。
 在宅勤務制をつづけてくれている勤め先は、この禍の長丁場において、オフィスを固定席制から自由席制に変えたという。休憩スペースをつぶし、そこに個人ロッカーを並べたとの案内がきたので、おのおの、かつての自席からロッカーへ私物を移動して席をあけるために会社に出向くことになった。
 自宅から会社まではドアツードアで片道1時間。新宿も通る電車に乗ることにやや気を重くして家をでたが、夕方より少し前のぽっかりとすいた電車から見える夏の景色がなんだかよくて、マスクのくるしさも忘れてしばし窓の外にみとれた。JR市ヶ谷駅をとおり、釣り堀が見える。ぽつぽつと距離をとりながらもそれなりに客が入っているように見えた。

 私物はもうほとんど会社に置いておらず、1冊のリングファイルとひざかけ、数点の文具などを自席から個人ロッカーに移動して、自席まわりを掃除し、出勤の目的が終わる。
 これだけのために、とは思わなかった。なんなら良い気分転換になった、ぐらいに晴々とした心持ちで部屋を出て洗面所で手を洗い、手の甲の骨の出たところでボタンを押してエレベーターを呼び1階へ降りてビルを出る。17時過ぎだがまだムッと暑い。とぼとぼ歩き、歩道橋の上の、まもなく駅が見えてきたあたりでふと、最後の退室時にドア横のセンサーにカードキーをかざすのを忘れたのではないか、と思えてきた。
 勤め先は、その人物のカードキーで「入室」の記録があった場合、同日の最後が「退室」の記録になってないとセキュリティのなんかがアレしてアレするようになってるらしいのだ。で、基本的には部屋を出るときもカードキーをかざさないとドアがあかない仕組みなのだが、きょうは、部屋の中からはカードキーがなくても出られる来客向けのきれいなドアから出てきてしまった気がした。自席から遠いしお客様の出入りがあるしで、通勤していた頃はめったにそのドアを使うことはなかったのに。部屋を出たときのあの晴々とした心持ちは、来客用ドアの新鮮さによるものだったのか。

 この歩道橋から職場フロアまで戻るのに、7分ちかくかかるな……と一瞬ためらう。だがセキュリティのなんかがアレして、それが理由で無駄に対応に追われる人が出たり、自分が怒られたりするのはいやだ。会社へひきかえす。粛々とビルに入りエレベーターのボタンを手の甲の骨で押し職場フロアにあがりカードキーをかざして入室し、くるっと振り向いてカードキーをかざして退室し、手の甲の骨で以下略。ビルを出ると、もういくぶんか涼しく感じられた。帰りもJR市ヶ谷駅の釣り堀に客がいるのを見とどける。

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 夕飯は玉子とオイルサーディンいり野菜炒め、商店街で買ったメンチカツ、カラムーチョ、トマト。商店街は今週からまた”都の要請に応じて“なのか、休業に入る飲食店が増えてきた。
 
 iPad Proに保護フィルムを貼る。今回買った保護フィルムは、フィルムを貼る際のさまざまな障壁(ホコリや気泡が入る、フィルムがずれる)に対して至れり尽くせりなフィルム貼りキットが同梱されており、ひどく不器用なわたしでもなんらケチがつかずに貼ることができてありがたかった。保護フィルムも貼って、いよいよiPad Proと本気で向きあえる。


 小田扉『横須賀こずえ2』、大橋裕之『音楽』、クリハラタカシ『冬のUFO・夏の怪獣』(途中まで)読む。まだ読みかけだけど『冬のUFO・夏の怪獣』すごく好き。高野文子のような軽さと技巧と可愛さと飄々がある。1コマ1コマが絵はがきのようでもあり、人に贈りたくなる本だ。

音楽 完全版

音楽 完全版

  • 作者:大橋裕之
  • 発売日: 2019/12/09
  • メディア: コミック
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