待ちわびたーーーっ!
- 作者: ウラモトユウコ
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2014/02/12
- メディア: コミック
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このカワイコちゃんヌーディストビーチ状態な表紙をめくれば、さぞかしエロいやらしいベースケ漫画が堪能できる……というわけではなく。そこには老若男女のコンプレックス、妄想、誤解と和解、ときめき、好奇心、情熱、先入観、プレッシャー、淡くねっとりした片思い……など、わたしに(誰にも)身近なあれこれが詰め込まれていた。10+1編の、あの娘のカラダのどこかから生まれるハナシ。
お話ごとの雑感。
- 桶屋さんのデコルテ
- あのトラブルもあのミラクルもぜんぶ、ペチャパイのせいだ。という桶屋さんの悩みでこれだけ盛りだくさんに面白い。 “苗字+さん”で呼ばれる女子の特徴がよく出てるよ桶屋さん(わたしも学生時代は“苗字+さん”で呼ばれた派!)。 ストーリーを横断するテントウムシがかっこいい。
- エレガのほくろ
- あっ、すごい。ヒトサマの大きいホクロを押してみたい欲求でこんな1話ができるなんて。 ウラモトさんは働く女性の制服姿を裸よりもエロく描くのよね。
- 姉の薬指
- これもすごい。タイトルで抱く予想を即裏切られて、こんなコマに連れていかれるとは。あの……これ明らかにわたしの頭の中に浮かぶ言葉がわたしの気持ちを表せてないんだけど、とにかく「多彩な表現力!」って思った。
- 母のまつげ
- 若かりしモテモテお父さんの、恋に落ちたときの情景が、懐かしい魔法を見たみたいですごく好き。
- 幽霊の二の腕
- まさか、まさか……?のドキドキも味わいつつ、主人公の女の子が銭湯を体得していくようすがしみじみと楽しい。
- 先パイの耳たぶ
- この漫画の、“エロそうで、エロさに焦点を合わせてなさ”がこの章は顕著(←なんだ?この日本語)。色気づきたい女子中学生と部活モリモリ野球部男子がこんなに接近してるのに……本人たちはそれどころじゃない。まっすぐでいじらしくてせつない話(まあでもこの野球部男子の脳内ではAすっとばしてBぐらいまでいったことになってるかもしれない)。
- 兄嫁のつめ
- 体のパーツからこういう話も生み出せるんだなあ……。感服。 しかしどこのウチの兄弟も長男長女は破天荒なんですね(主人公のお兄さんの行動、ウチの姉そっくり)、と勝手に共感しています。
- キミの脚
- 扉絵……!タイトルの“キミ”から察するに、順調カップルのおのろけエピソードでも始まるのかとおもいきや。ウラモトさんがそんなの描くわけなかった。追い詰められるとヒトは新たな性癖に目覚めるかもしれないという話(←誤解を招く解説)。彼の頭の中で日々濃く大きくなりゆく“キミ”がパンツ(下着のほうの)穿いてないのがさー、いいっすよね(←誤解を招く感想)。 別れの場面の女のセリフは身に覚えあるなー。女って勝手よね!ねー。 女性の脚のバリエーション豊かさに笑いつつギクリとしました。
- ふたごのスキマ
- この双子が美少女じゃないらしい、平凡な顔っぽいのがいいですね。 “それを厭がってみせる人ほど、じつはそれを自分から発している”ってのがドキーンとしました。 二人で一つの三つ編みやばい。なんでかエロい。*1
- 彼女のかたち
- わー、このいじらしさとアブなさの紙一重がね。わたしも、名前も知らぬ「いいなー」と眺めるだけの男性がいたことがあって、ある日そのひとが女性連れなのを見かけて結構ショックを受けて、そんな自分にさらにショック受けたことある。ああいうとき心の中で衛生兵が駆け寄ってくるよね(衛生兵の件は漫画と関係ありません)。
- 《番外編》風吹ちゃんのおしり
- 扉絵……!(ふたたび) コンプレックスのない人間なんていないわよね。桶屋さんと風吹ちゃんはそういうお仲間だったのかー。またどこかで会えるといいなあ。
各話の女の子がそれぞれ違う可愛さで、読み始めるたびに、ちゃんと彼女たちと「初めまして」になれるのが、語弊があるけど「いろんな女の子に会えてお得!」な感じがした。というか女の子だけでなく男の人も、ちゃんと違う。いや……人物の描き分けどころか、話ごとに、画風さえ違って見えるところに毎度驚きながら読んだ。それぞれの世界に個性を感じる。でもぜんぶウラモトワールドだ。どういう仕組みなんだろう。
オビに「新生・ウラモトユウコの才能がきらめく、すけべでロマンティックなオムニバス作品集!」とあるけどほんとうに「才能」という言葉が似合う漫画家さんだなー。わたしは漫画をそれほど読んできていないのでわかったようなことは言えないけれど、ウラモトさんの漫画を読んでると「高野文子さんが出てきたときの漫画好き界の衝撃ってこんな感じだったのかな」って思う(高田築さんの『野ばら』を読んだときにもそう思った)。地続きのまんま空に連れてこられたような、起きてるまんま夢に吸い込まれたような。三半規管がぐわんとなるのに不安にならないおもしろさ。ストーリーも構図も新鮮なのに、読み惑うことなくスルスル読めるのは、じつはすごいことだ。画力、構成力、表現力、訴求力……ウラモト漫画にはいろんな力の強さを思うけれど、それらをぜんぶ束ねた強烈な魅力がある。
ウラモトさんの初単行本『椿荘101号室』もとてもおもしろくて大好きなのでまたいずれ語るつもりでいるけど、『彼女のカーブ』は、単行本2冊めにしてウラモト宇宙(もう“世界”じゃ足りないや)を確立している。日常と胸中と潜在意識をかきまぜたぬか床、に浸かってた、色鮮やかでうまい漬物のような漫画。さっき世界じゃ足りないから宇宙っていったのに急にぬか漬けになったね。
たとえにたとえを重ねすぎてなんだかわからなくなってきましたが、それはいつものことなので、とにかくお伝え申し上げたいのは、「間違いないから読んでみて」!
*1:ところで「ふたごのスキマ」って、なんだかテレビっ子に馴染み深い字面ですね。【参考】 http://littleboy.hatenablog.com