きょう行った美容院で、渡された雑誌(AneCan、non・no、オリスタ4月上旬号)のどれも自分がいま読みたいものでなかった。これはいけないと思い「何かもっと珍しくて面白い雑誌はないですか」とかぐや姫的リクエストをしたところ、美容師さんが「外国人のお客様が来たときに出す雑誌なんですけど……」と出してきたのがコレ。
Pen+ 「Real Tokyo Guide 2011」 (HC-ムック)
- 出版社/メーカー: 阪急コミュニケーションズ
- 発売日: 2010/10/15
- メディア: ペーパーバック
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髪を切り終わって店を出るとき、私が「あのう、さっきの雑誌のページをコピーしたいのでお借りできないでしょうか」と言うと美容師さんは「あ、あれ古いのであげますよ」とくれたのだ。やった!
2年半前に出たもので、書店ではもう手に入らないだろうという言い訳で、以下に書き起します。段落改行ほか表記はいずれも原文ママ、元の記事にはこれの英訳も載っています。
あたらしい物語にあふれた都市で。/堺雅人
2010年のサッカーW杯は、仕事をしながらテレビでコソコソ観戦した。最後のパラグアイ戦のときも、お台場のスタジオでドラマを撮影していたのだけれど、スタッフや共演者と「PK、パラグアイ、3人目、成功」などとヒソヒソささやきあっていたものだ。
「いま都内のあちこちで、同業者が仕事をしながら、にたようなことをしているんだろうなあ」
なんて想像をして、たのしかった。
ご存じのように日本ではおおくのテレビドラマがつくられている。地方で制作したものもあるが、ほとんど東京の作品といっていいだろう。2010年8月の第3週、東京では新作ドラマを、地上波だけでも30本みることができる。パラグアイ戦の夜も都内でたくさんの組が撮影していたにちがいない。このうち連続ドラマの大半は、1話1時間、全10話、3ヶ月で終了する。春夏秋冬でわけるのは季節感を大切にする日本人の習慣かもしれないし、十話という区切りのよさのせいかもしれない。
それにしても人口1億そこそこの日本で、これだけ新作ドラマがつくられているのは、不思議といえば不思議なものだ。これは英語圏のドラマのように輸出をみこしたものではない。基本的に1億2千万人がたのしむための物語だ。1年間につくられる新作ドラマは何本か、この稿をかくにあたり総務省にきいてみたのだけれど「把握してない」とのことだった。僕の勝手な想像だけど、100はこえているだろう。
そういえば、民放局が2つしかない宮崎からでてきた20年まえ、東京でみられるドラマの数にビックリしたものだ。当時は深夜に放送される1話完結の30分ドラマもたくさんあった(僕の映像デビューもそうした一本である)。上京してすぐ、僕は大学の演劇サークルに参加したが、あのころ僕たちのような十数人のちいさな劇団は、古典やレパートリー作品ではなく、新作ばかり上演していた。日本映画は昨年450本ちかく公開されたというし、アニメーション作品などもあわせれば、東京は「あたらしい物語」のなみはずれた生産地なのかもしれない。
ところでW杯をみながら想像したことがもう一つあって、それは
「いま、日本以外でも、同業者が仕事をしながらコソコソ試合をみているのかなあ?」であった。
日本とおなじグループEだったオランダやデンマーク、カメルーンでは、どのくらい自前のドラマがつくられているのだろうか。
これまた僕の勝手な想像だが(大使館のかたが夏休みで、しらべられなかったのだ)日本の半数にも満たないのではないか。
海外からの観光客にすすめたい東京の名所はたくさんあるけれど、
「みんなでテレビドラマをみる」
というのはどうだろう。東京はたぶん「あたらしい物語にあふれた都市」だ。日本の友人に解説してもらいながら、ストーリーや演技にチャチャをいれつつ、お酒を飲んで、ワイワイと―――。どういうカタチであれ、たのしんでもらえたなら現場の一員としてとてもうれしい。W杯をコソコソみた甲斐もあるというものである。
ジャズクラブ、食べあるき、下町の商店街、橋や川など各人がおもう東京名所が並ぶコラムの中で、唯一、場所でない東京について紹介する堺さん。外国人向け(英訳のため)ということもあろうがとてもやさしい日本語で、しかし堺雅人ならではのユーモラスな東京紹介。読めて良かった、AneCanで妥協しなくて良かった!(AneCanはとてもすばらしい雑誌です)