ワ1済(ファ)

  • 8/3(火)
    • 17:30  冷蔵庫の残りものでひとり夕飯を済ませる。自転車で接種会場に向かう。
    • 18:40 ファイザーコミナティ筋注1回めを左肩に打ってもらう。
    • 19:40(1時間後)36.1℃。帰宅しシャワーを浴びる。打った左の肩がすこし痛いような気もするがシャンプーは難なくできた。
    • 22:00(3時間半後)空腹。これが副反応によるものか、単に夕飯が早すぎたせいかわからない。食欲減退時でもテンションが上がるように、と夫が買ってきてくれた資生堂パーラーの飲むゼリーを飲む。「ビューティープリンセス」という名の商品で、ブラッドオレンジ味。
    • 24:00(5時間半後)空腹で寝つけず、冷凍うどんをゆでて食べてしまう。
  • 8/4(水)
    • 05:40(11時間後)白いシャツに白いスカート姿のフワちゃんがいる。フワちゃんはいろんな色のスカーフを体に巻きつけてみるみるカラフルになっていく。そういう童話があったなとせつない気持ちで目が覚める。夢だった。孔雀の羽で自分を飾るカラスの話だったような。布団のなかで腕をあげてみるがゆうべより左肩が痛い。でも上がらないというほどでもない。寝直す。
    • 06:35(12時間後) 36.6℃。二度寝から覚めて左腕がしびれていることに気づく。副反応ではなく、腕を無意識に上げて寝ていたからかもしれない。
    • 08:30(14時間後)生理の始まりのような微量の出血がある。周期でいうと この日は15日めなので、生理の出血ではないはず。起床後最初のトイレで気づいただけで、この日はこれ以降の出血はなかった。
    • 09:30(15時間後)36.8℃。体調は良い。左腕が痛くて可動域が狭く、力もはいらない。もっぱら自分がやっていた朝の家事を夫にひとつひとつ依頼してやってもらう。(真夜中のうどんのせいで)胃が重いのでビューティープリンセス(マスカット味)を飲む。
    • 12:00(17時間半後)夫が出勤してしまい、左腕もまだ自在に動かせないので冷凍食品の皿うどんを、右手で冷凍庫から出し、右手であけた電子レンジに右手で放りこみ、あたため、右手であけた電子レンジから皿うどんを右手でとりだして、右手にフォークを持って不器用に食べはじめた。自分は食事だけは左利きで、箸をうまく持てない右手で食べるからには……とフォークを持ったが、左腕は上がらないだけで、ひじから先は難なく動かせる(直前まで両手でキーボード叩いて仕事してた)んだったと思い直してフォークを左手に持ちかえて食べた。
    • 15:35(21時間後)37.0℃。仕事、午前にやった作業で一部要件を見落としていたことを依頼元から指摘され謝罪、やり直す。
    • 16:30(22時間後)37.2℃。エアコン+サーキュレーターの風が、肌では痛冷たいと感じるのに体が熱くてボーッとする。
    • 19:30(25時間後)36.8℃。夕飯は私のリクエストにより夫が冷麺を作ってくれた。焼肉とキムチとトマトときゅうりとスイカがのっている。ぺろりとたいらげた。腕の痛みはだいぶひいてきた。
  • 8/5(木)

 以降は体調面で気になる点なし。自分の体調で副反応のピークと呼べるのは接種22時間後あたりか。やたらに空腹感をおぼえたのも仕事でミスをしたのも副反応と思いたい。

 この日記のタイトルは (人生を変える)冒険してもいい頃【久保みねヒャダこじらせブロス 連載】|TV Bros. ( テレビブロス )|note から拝借した。

* * *

 会場は「NHK渋谷フレンドシップシアター」。自治体の案内する集団接種会場のうち、予約枠が空いているなかでの最寄りがここだった。NHK前のケヤキ並木通りにあり、放送センターとは通りをはさんで はす向かい、国立代々木競技場に隣接している。国立代々木競技場は今回のオリンピックではハンドボールの会場になっているらしい。あとから新聞で見たところ、自分の接種時間帯は「男子準々決勝第4試合」をやっていたようだ。
 最寄りといっても自宅から約4km、自転車で片道20分ぐらいかかる会場へははじめ、接種後の体調悪化に備えてバスでの往来を考えていた。しかし東京は連日新規感染者3000人超えで、8月3日も「3709人」とのニュースを出がけに見てしまう。バスに乗るのが怖くなり、自転車でむかうことにした。
 夏の夕方に自転車をこぐのは良い気分転換になった。自宅からNHKへの道のりは、乱暴にいうと角を3回まがるだけで着く。そのシンプルさも気に入っていた。だがそれは代々木競技場にむかう道のりでもあって、今回は五輪のための交通規制により多少迂回することになる。方向音痴の自分を迂回させるとは。五輪開催への憎しみがさらに強くなる。
 迂回を重ねてなんとかNHK前のケヤキ並木通りに入ると、「PSA」という紙が貼られたテントが通りにいくつも並んでいる。テントの中には迷彩柄の上下服および帽子の人びとがいて、テントの横には救急車も停まっていた。競技場のフェンス沿いには警備員もたくさんいる。ものものしいテントのあいだを、だが特に止められることもなく自転車をひいて通り、接種会場「NHK渋谷フレンドシップシアター」についた。


 広くはないが高さのある、テレビスタジオのようなところだった。会場の壁のひとつには壁いっぱいの大画面。8Kスーパーハイビジョン、だそうだ。本来はパブリックビューイングのための施設なのだろう。
 予約時間よりも30分早く着いたが、前の時間帯の予約枠に空きが多かったのか、特に予約時間まで待つこともなく会場に入った順に検温→予診票チェック→問診……とさくさく通され、会場入りの5分後にはもう接種完了していた。注射は噂に聞いていたとおり、これまで刺してきた注射針のなかでいちばん痛くないような気がした。終わりですといわれなければ注射したことに気づかなかったかもしれない。
 接種を終え、経過観察コーナーの椅子に座って15分待つよう案内を受ける。席の前方には8K大画面があり、鮮やかできめ細やかな自然の映像が倍速再生で延々と流れていた。倍速でたゆたう雲海にうかぶ富士山、倍速で陽がさす森。倍速で川が流れ、倍速で遠き山に陽が落ちる。陽が昇ったり落ちたりの倍速はべつにいいが、倍速の川の流れはとても不安になった。固定カメラが写す川の様子は速度を上げたところで大きな変化はない。が、微妙に水しぶきや周りの木々の揺れがせかせかしていて、それが不安になるのだ。せっかくの8Kスーパーハイビジョンに映すのになぜ不自然な倍速映像か。ひょっとしたら、ただ自然の映像を流すだけではその画質の良さで感動を与えてしまう恐れがあるため、倍速にすることで若干の不安を混ぜて感情プラマイゼロをはかったのかもしれない、などと考えて暇をつぶした。
 Twitterで「経過観察 映像」と検索する。他の会場ではパンダの様子やハワイの風景が流れているところもあるらしく、両国国技館での接種では升席で相撲講座を鑑賞するらしいとも知った。パンダはうらやましいが、ハワイ風景は旅行欲を刺激してこのご時世に限ってはあんまりよくないのではないか。相撲講座も人によっては奮い立ってしまいそうである。
 まだ15分経っていなかったので「PSA  オリンピック」でGoogle検索してみた。PSAは”手荷物検査場”を意味するらしい。無観客開催でもあれだけの手荷物検査場と人員が必要になるんだな。世界中で勢いが増している感染症の予防ワクチン接種会場の隣で、各国からアスリートを集めた世界最大の国際スポーツイベントを無観客開催している。おかしな一文だ。おかしな世界に来てしまった。


 15分経ち、会場を出る。代々木競技場の屋根がなにかしら飾られているように見えたが、立秋も近い日の19時直前の暗さではよく見えなかった。
 西向きの帰路を自転車で走りだすと、むこうの空は圧倒的夕焼けだった。こいでもこいでも、しばらく夕焼けはつづいた。