レイドバトルの甲斐

 出勤してコーヒーをいれにいくと、ウォーターサーバーの前だけで会える別部署の男性Yさんがコーヒーをいれているところだった。Yさんは、陸奥A子先生が描いた小松和重氏、といった感じの、背が高く痩せていて姿勢が良く、清潔感と親しみやすさのある人だ。ウォーターサーバー前でしか会わないが、わたしはひそかに彼のファンだった。Yさんとは仕事で関わったこともなく、名前も他の人から呼ばれているのを聞いて知り、その後に見た社内報で所属を知った。ちなみにその社内報でYさんは「古生物学とウミウシが好き」と書いていた。すてきだ。以前、昼休みにYさんとエレベーターに乗り合わせた際、Yさんが手に図書館のラベルつきの文庫本を持っていたのでわたしが「本を片手にお昼に出るのいいですね」と声をかけたら「これ返しにいくんです。あそこの公園のむこうに図書館があるんですよ」と知らなかった図書館情報を教えてくれたこともあった。すてきだ。
 Yさんとはいつも、おはようございますのあと、お互いがコーヒーを落としている間の沈黙を埋めるために天気ていどの他愛のない話をする。きょうは、いまローソンでスヌーピーグッズをもらえるキャンペーンがやっていること、スヌーピーグッズは集めたい人が多いのかキティちゃんやリラックマのキャンペーンに比べてこのウォーターサーバー隣の「ほしいかたどうぞ」スペースに応募シールを寄付していく人が少ないということ、Yさんには双子の息子さんたちがいて彼らが小さい頃は2人お揃いでリラックマの食器を使わせたら可愛かろうと思いローソンのキャンペーンのたびに2セットもらえるようシールを集めていたがその息子たちも小学生になりリラックマに興味を示さなくなったということ、いま息子たちはドラえもんに夢中で、通う小学校の6年生に「ドラえもん博士」と呼ばれるお兄ちゃんがおりその子のところにドラえもん知識くらべをしにいったらしいことなど、わりと踏みこんだ話を聞けた。わたしもYさんもとっくにコーヒーを入れ終わっていた。朝から幸せな気持ちに。

 退勤。3駅先まで歩く途中、近くでレイドバトル開催中のジムがあった。通り道ではないが寄れる。ジムに近づいてみるとそれは袋小路にある小さな神社で、すでにスーツ姿の男性やスーパーの袋が入った自転車に乗ったまま止まっている女性などがいた。みんなスマホを覗いている。お参りするでもなくそこに居合わせるとお互い素知らぬふりをするのが困難なほど小さい神社で、みんな腹をくくっている様子だった。ジムには7人が集まった。自分が参加したレイドバトルでこんなに人が集まっているのは初めてで興奮した。倒すのはレベル3のカイリキー。7人もいるとあっというまに対戦が終わり、腹をくくった甲斐を感じた。

 歩いて新宿三丁目を通るころ、夫から退勤連絡。新宿三丁目にいる旨を返すと、母親ズへのプレゼントを見にいこうかと提案されたので伊勢丹に集合することになった。今週末、両家の両親が申し合わせて我々を食事に招いてくれているのだが、その日程を見てわたしが「ウチの母親の誕生日がこの前日だ」とつぶやいたら夫がウチの母親の誕生日はさらにその前日だ、と言った。それならば、子どもたち抜きでも仲の良い母親ズに揃いのプレゼントでもあげようということになり。
 新宿伊勢丹の5階文具コーナーで、名入れ便箋が作れるのを知る。頻繁に手紙のやりとりをしているらしい母親ズなので、それぞれの名入れの便箋を作ってはどうかと思ったが、作るのに3〜4週間かかると聞き今週末には間に合わないのであきらめた。名入れの便箋が作れることは覚えておこう。その後もいろいろ見てまわり、悩んだ末に7階の遊中川で柄ちがいの懐紙入れと懐紙を買った。あまり高価なものを贈るとその何倍もの(むこうの価値観で選んだ)お返しをしてくる母親ズなので、控えめに、誕生日が隣あっててますますご縁を感じますねという気持ちだけを贈ろうということでその選択になった。
 慣れない買い物が終わりノドが渇いたのでよなよなビアワークスに駆けこむ。限定の「僕ビール、君ビール。続よりみち」というビールが(名前はいけすかないが)青々しくておいしかった。