景気のいい場面

 21時過ぎに会社を出る。しょぼしょぼ。地元駅について、そのままさっさと帰宅すればいいのに、なにか珍しいビールやお菓子でも買いたいような気がして(具体的になにが買いたいというのはない)コンビニを見つけるたびに覗いて特になにも買わず出る、というのを繰り返してたら駅から家まで7分の道に20分以上かかっていた。自分のテンションを上げられるなにかが見つけられない。
 結局なにも買わずに帰ると家のテレビは『開運!なんでも鑑定団』を映していて、ちょうど最後のお宝の鑑定価格が決まる瞬間だった。(イチ、ジュウ、ヒャク、セン、)お宝はとにかく美しい屏風で(マン、ジュウマン、)疲れていたこともあり(ヒャクマン、)バッグを持って立ったままぼーっと見ていたら(センマン、)二千万円になった。依頼人の方が文字通り飛び上がって喜んでいる。そのあとは石坂さんとアシスタントの吉田さんが今ちゃんから大きな花束を受け取ってさらっと挨拶をして終わった。
 誰かの景気のいい瞬間を見たな。と、もう1つの部屋に入っていくと立派なCD棚があった。家主が買ったらしい。600枚入るそうだ。景気がいい。すでに500枚ほどのCDが並べられていて、合間あいまに仕切りの薄いプラスチック板がさしてあり、CD店のCD棚みたいになっている(「は行のアーティスト」→畠山美由紀〜)。並べるの楽しそうだ。
 家主が食卓に料理を運んできた。焼き魚と若布ごはんと、4人前ぐらいある大盛り焼きそば。魚は鯛だった。天然鯛が安かったから、と家主。すごい組み合わせだ。食べ盛りがいるようだ(わたしか)。でもどれも春の大人の食材だ。冴えなかった1日を取り返すかのように帰宅後10分で次々と景気のいい場面に立ち会った。