ピルクル

 昼食を最後に水分も摂れないまま22時半まで仕事。数ヶ月やってきたことをひっくり返すようなことを言われ、それを「明日までやる」以外に選択肢がないと説得され、やる者はわたしだけであるのに「逆に何が大変だと思っているのかわからない、複雑に考え過ぎだ」とまで言われる。依頼者は事態を重く感じさせないようにそう言ったのだろうし、まずむこうが疲れてるからそういう言葉が出たのだろうが、のどの渇きに気づくと同時に、一言ごめんなさいって言ってもらえたら報われるだろうか、と思った。
 職場を出ると、あごの痛みと頭の血管の存在感を覚える。ずっと歯を食いしばっていたようだ。せめて水分を、とコンビニに寄る。夕飯も、と弁当コーナーも眺める。今夜は家主も仕事で遅い。明け方に帰るかも、と朝の出がけに言われていた。弁当を見て、腹はすいてないことがわかる。こういうときは酒も飲んではだめだと思う。ウイダーインゼリーでいいか、夜にウイダーインゼリーはなんだか自分で自分を追い込んでるみたいだが、と棚を移動していると紙パックドリンクコーナーにピルクルを見つけた。あのヤクルトみたいなやつだ。これだ、水分と(たぶん)栄養分、と思ってピルクルをつかみそれだけを買って出る。ピルクルのほうが悲壮感がない。コンビニを出てすぐにストローをさし、家に着く前にピルクルを飲み切る。帰宅して玄関灯だけつけておき、部屋の灯りは一度もつけないままうがいして足を洗って布団にもぐった。
 玄関の鍵を開ける音で目が覚める。朝5時半。家主が帰ってきたので「おかえりー」と布団の中から言う。ただいまーと言った家主もうがいなどをしてすぐに布団にもぐりこんできた。