爆笑問題の日曜サンデー(ゲスト:鈴木敏夫)前半

勇退」?

田中:本日のお客様は、スタジオジブリのプロデューサー、鈴木敏夫さんです。どうもこんにちは。
太田:こんにちは。
鈴木:どうもこんにちはー。
太田:ご無沙汰でもないですよね。わりとちょくちょく会いますよね。
鈴木:そうですね、いろいろ『かぐや姫(の物語)』ではお世話になりました。
太田:お世話しましたよ、ほんっとに……
鈴木:わっはっは(笑)
太田:だって鈴木さん、愚痴が多いんだもん!「参っちゃってさー、金かかっちゃって」って
鈴木:ほんとなんスよそれ〜
田中:まあね、お金はかかるからね……。あのー、今ここにスポーツ新聞があって、デカデカと……「勇退
鈴木:いやー(ラジオ出演の)タイミングいいですねー。びっくりしちゃった、あはは(笑)。土曜日に記者から電話がかかってきてねえ、「鈴木さん、勇退なんですね?」って言うから「いや、特に前と変わんないよ」って言ったら「いやー……“勇退”で」とかなんとか言われたもんだから
田中:ちょっとね、劇的なほうに
太田:(記者に)辞めろって言われてるようなもんですねえ
鈴木:見出しの横のほうに「GMに就任」って書いてあるでしょう。これ何かっていうとね、あのー、ドラゴンズの落合監督GMになったでしょう。……羨ましかったの。
田中:憧れてたの!?GMになりたかったんだ?
太田:そうだったんだー。肩書きがほしかったの?
鈴木:だってー!だってもう、制作現場で今までのように監督とアニメーターといろいろやっていくの……結構大変なんですよねー。
太田:(笑)
鈴木:で、落合さん見てて、なんだ?試合の指揮はとらない?今年のテーマはこうだとか、スタッフはこうだとか……
田中:(落合さんも)やってるとは思いますけどね(笑)
鈴木:まー、かっこいいこと言うと、僕は先のことを考えて……。うっふっふっふっふ(笑)
太田:なるほどー、そういうわけが
鈴木:やーもうぜんぶ落合さんのモノマネなんで、ちょっとそこらへんがみっともないんですけどねえ。
太田:引退とはまた違うわけですね。
鈴木:違いますねえ。
太田:完全に離れてしまうということではない。
田中:宮崎監督が去年、引退っていうのがあったから、じゃあそれに伴って鈴木プロデューサーもかな、って世間は、なんとなくね。
太田:アカデミー賞のショックで、とか
鈴木:いや僕ね、落合さんと個人的におつきあいがあって、それで、あの直前(落合氏GM就任直前?)に「落合さんどうすんですか」って言ってたんですよ。そしたらねえ、「どうするかなー」とか言っててね。そんでいきなりGMでしょ。あれ僕ほんとびっくりしたし、かっこいいしねえ。
田中:なんでそんな憧れたんですかGMに(笑)
太田:じゃあ今までとそう変わんないってことですよね。
鈴木:そう変わんないですねー、ハイ。だから、次の映画『(思い出の)マーニー』ってのをやってるんですけども、企画を決めたのも僕だし、スタッフを決めたのも僕。それで大事なスタッフは説得しないとだめだったんですよ。そこらへんも決めたし。まあついでに言うと、プロデューサーも決めて、お前がやれと。
田中:西村(義明)さん。
鈴木:そう。面倒くさいのは全部お前がやるんだ、と。
太田:一番えばって、一番いい……
鈴木:そうそうそう(笑)
田中:まあでもそりゃそうなんだけどね、実際今まで、ジブリをここまでにしてきたわけだから
鈴木:ちょっとやってみたかったの(笑)

“そのうちなんとかなるだろう”

太田:でもここんところ、ねえ、宮崎さんから高畑さんから、連チャンで
鈴木:大変だったんですよー
田中:そういったことも含めましてですね、鈴木敏夫さんのプロフィールをご紹介させていただきたいと思います。(プロフィールBGMのイントロがなる)お、いいねえ。
江藤愛アナウンサー:(鈴木敏夫氏プロフィールを読み上げる) 〜BGM:植木等『だまって俺について来い』〜
田中:ゲストが一番好きな曲をうかがいましてその曲をBGMにプロフィールを紹介していますが、植木等さんの『だまって俺について来い』。
太田:いいなー
鈴木:だいっすきなんです。たぶん高校生ぐらいのときに(それを主題歌とする映画が)やってたんじゃないですかねえ。もう、心の師は植木等だと、高校生のとき決めたんですよ。
太田:へー。無責任男。
鈴木:この歌詞。“金のない奴ァ俺ンとこへ来い 俺もないけど心配すんな”でしょ。で、いきなり“見ろよ青い空 白い雲”でしょ?で、“そのうちなんとかなるだろう”……ヨシ、これでいこうと思ったの。
田中:これ(作詞)青島さんですかね
鈴木:青島幸男さん。僕、尊敬しましたもん。この歌のおかげで僕たぶん、宮崎、高畑とつきあえたのかなあと。
太田:まー鈴木さんと話すとね、あの2人の悪口しか言わない。
鈴木:わっはっは(笑)
太田:どんだけ大変か、と。2人の気難しい人をね。
田中:また2人がタイプの違う……
太田:“そのうちなんとかなるだろう”と思わなきゃ、つきあいきれなかったということですよね?
鈴木:まあそういうことですね。
全員:(笑)
鈴木:去年だってねー、『風立ちぬ』と『かぐや姫』を同じ日に公開したい(と当初は計画していた)、そしたら高畑さんがゴチャゴチャ言い出して
田中:ゴチャゴチャ(笑)
鈴木:(『かぐや姫』の公開日が)延びちゃうわけでしょう。だから僕ね、全部終わったあと、2人に言ったんですよ。同日公開できなかったんで、この上は、2人の葬式を同じ日にやりたいって。
全員:(笑)
田中:なんすかそれ
太田:自分が殺すって言ってるようなもんじゃない
江藤:いやいやいや……
鈴木:(予定通り葬式ができるよう)誰か差し遣わせますからって
田中:とんでもない(笑)
太田:面白い関係だねー。

宮崎駿引退会見の内実

田中:こないだも『探検バクモン』で(ジブリに)うかがったんだけど
鈴木:あー、ありがとうございました
田中:高畑監督ともお話させてもらったんだけど、やっぱりこの3人の関係って本当に面白い
太田:宮さんとはまだ1回も会ってないんですよ我々
鈴木:(宮崎さんは)じつに面白い人でね、いつも、何か思いつくと階段かけのぼって僕の部屋にやってくるんですよ。いつかも、(宮さんが部屋に急に入ってきて)「鈴木さん、わかったんだよ!」って言うの。何がですか、って言うと「パクさんと俺と鈴木さんが今までなぜうまくやってこれたか」って。それは僕も気になるじゃない。どうしてなんですか、って訊いたら「お互いがお互いを、尊敬してないからだよ!」って。
太田:(笑)そんなこと今ごろ……気がついたの
鈴木:思いついたら我慢できないんですよ、言いたくて。僕、腹ん中で「この人ほんとヒマなんだなー」って。
田中:ヒマじゃないですよ(笑)
太田:でも、宮崎さんは今どういう感じでやってるんですか。引退後は。
鈴木:引退後は好きなことやりたいって言って、漫画を描き始めたんだけど、あとはジブリ美術館の毎年の企画を、去年からやってて。で、やってるのはいいんだけど、やり始めたら目の色が変わってきて……映画つくる以上にねえ……。それが原因なんですよ、(宮崎さんが)アカデミー賞に行かなかったの。
田中:えっ、そうなんですか?そっちが忙しいってことで?
鈴木:「これ、俺が展示して子どもたちが喜んでくれなかったら、俺の負けだ。(授賞式に行かなくて)悪い」つって。
田中:情熱はずっとあるってことですよね。
太田:アニメじゃなくても他のところにシュートしたってことですよね、気持ちが
田中:でもアニメもまたやるって可能性あるわけでしょ
太田:うそつきだからねーあの人は
鈴木:でもそれに対して言ってたじゃないですか、(引退宣言で)「今度は、本気です」って。
田中:「今度は」って言ってる時点でねえ
鈴木:自分で自分を抑えようとする人だから。
太田:でもね俺『かぐや姫』を観たときに、これを観たら宮崎駿は「このまま終われない」って思うんじゃないかなと思ったんですよ。
鈴木:さすがですねー……。やっぱり目の色変わったんですよ。
太田:でっしょー!ほらあ
田中:変わりました?やっぱり
鈴木:でも引退した後でしょう?だからなにかひそかにねえ、考えてるのかもしれない。
太田:負けだもん、ここで終わったら負けだもん。
田中:負けとかじゃないけど
鈴木:こういうこと言っちゃうと引退撤回とか言われちゃうから、改めて言いますとね、……「長編アニメはやらない」……って言っただけなんです。
田中:そうそうそうそう
鈴木:今だから言いますけどねー、『風立ちぬ』を始めるときから「鈴木さん。俺も、いくらなんでもこれが最後だろう」と、ゴチャゴチャ言ってたんですよ。
田中:ゴチャゴチャ(笑)
鈴木:それで(『風立ちぬ』が)出来上がったのが、忘れもしない去年の6月19日。彼が言い出したわけですよ、「記者会見やりたい」って。引退の。だけど映画が出来上がったばかりでしょう?(このタイミングで引退会見したら)いやな宣伝に思われちゃうじゃないですか。だから我慢してくれ、と。そしたら本人が「じゃあいつなんだ」って言うから、まあ一段落するとしたら9月ですかねえって言ったら「わかった」って。その頃に言ってたのは“全面引退”ですよね。ところが、9月6日。引退記者会見の直前。もうね、だいぶ……『かぐや姫』観てたみたいなのね。
太田:(笑いながら手を叩く)
田中:あー、まあね、だいぶできあがってきてるから
鈴木:そしたら「鈴木さんさー」って突然態度変わったんですよ。「なんで俺……引退記者会見やるんだよ」って。
田中:自分から言い出したんでしょ(笑)って感じでしょう、鈴木さんからしてみれば
鈴木:そう。それで、宮さんから言ったんですよって言ったら、もう1コ付け加えてきたの。「俺は、……全面引退なんて言ってないよ」って。
太田:器の小さい男だよ(笑)
田中:いやでも、あれだけの(偉業を成している)人が、子どもみたいに、負けたかもしれない、悔しい、もっとやりたいとかって素直に言えるのはすごいね。
鈴木:それでついでに言っちゃうと、去年の12月、文藝春秋ががんばってくれて、それまで1度もなかった宮崎・高畑・鈴木の話し合いを企画したんですよ。そこで高畑さんが「宮さん、本当に引退するの?」って
太田:また単刀直入に
鈴木:そしたら(宮さん)、「いや……あれは、鈴木さんの陰謀です」って
江藤:えー!
田中:すごい(笑)。わかりやすいごまかしかた……
鈴木:本当にねえ、みなさんにご迷惑をかけてねえ(笑)。でも改めて言ってました、「長編アニメはつくらない」って。この言い方が微妙なんすよー。これ僕の予想なんですけどねえ……3分ぐらいのもの作るんじゃないですかねえ。
田中:ああ、ほんとに短編を。
鈴木:どうしてかっていうと、表現……『かぐや姫』を観てね、やっぱりそこを刺激されたみたいなんですよ。
田中:まあ、まあ、そうでしょうね。

高畑さん

太田:鈴木さん自身はどうですか。『かぐや姫』と『風立ちぬ』。どっちが名作ですか。
鈴木:……むずかしいこと言いますよねえ(笑)
太田:はっきりしてもらわないと。
鈴木:しょうがないですよ僕の立場だと(笑)。まあ改めて思ったことは、宮崎駿はエンターテイナー。高畑勲はアーティストですねえ。
太田:……いやそれじゃ答えになってない
全員:(笑)
田中:まあね。まあでも鈴木さんの立場だとね
太田:両方兼ね備えての“作品”ですから
鈴木:それは(どちらがどうというのは)……2人が死ぬまで無理ですね。
太田:言えない。
鈴木:殺してくださいよ(笑)。
田中:いやでもほんとに楽しい関係で
太田:いい関係ですよ
田中:スタジオに行ったときも、高畑さんもすごく人間味あふれる人だし、鈴木さんもこんなふうに面白いおじさんで
太田:面白いおじさん(笑)。変なおじさんみたいだ。
鈴木:高畑さん、人間味あふれてます?
田中:僕(高畑さんに)初めてお会いして、もっととっつきにくいおとなしい人だと思ってたんだけど、でも話していくとだんだんやっぱり
太田:うん、すごく夢中になってくのね、自分の話に
鈴木:まあねえ、いろいろ言われてますけどやっぱり(宮崎駿高畑勲は)似てますよね。何が似てるかっていうと、人に負けたくない。
田中:負けず嫌い。
鈴木:そうですよ。だから人間的には最低ですよ。
田中:いや最低じゃないですよ(笑)
鈴木:僕なんかおかげさまであの2人でつきあったことでいいこともあるんですよ。世間の常識……通念で言うと、あの2人は人間としてどうしようもないわけですよ。
太田:(笑)
鈴木:そうすると、そういう人とつきあったおかげで僕はどんどん人間的に成長してったという……自分ではそう思ってるんですよ。なんで俺ってこんなに立派になったのかなあって。
田中:それをね……言わしてくれる2人ってことなんですよ
太田:でも最初にアニメーションを作ろうと思ったのは……なにかその、宮崎駿にアニメを作らせたいという相当な思いがあったわけでは
鈴木:いや、僕はもともとアニメーションにはまったく興味がなくて。ほんとに仕事として始めるんですけれど、その(自分のアニメーション史の?)創刊号でね、なんと2人に、出くわしちゃうんですよ。
太田:それインパクトあったでしょうねえ。
鈴木:僕は出版社に入って、それなりにやっていこうと思ってたわけだから。
太田:だって『アニメージュ』っていったらちょうど俺らの世代ですから。俺は毎月、最初っから読んでますよ。
鈴木:ありがとうございます。
太田:かなり金落としてる
田中:たいした額じゃねえだろ(笑)
鈴木:ほんとのこと言うとね、あの2人に出会ったことで、あの雑誌づくりが面白くなりましたね。それでね、僕、出版社に入ったでしょう。作家ってどんな人なんだろうと興味を持ってた。ところが、いろんな作家に会ったんですけど、いわゆる“作家”なんて人はどこにもいなかったんですよ。
太田:当時?
鈴木:そう。もうね、それは、だめになってた。そしたら(出会ったのが)高畑・宮崎でしょう。僕は驚いたんですよ、こんなところに隠れてたんだ、って。
田中:それは具体的にはどういうところでそう感じるんですか。
鈴木:やっぱり作品をつくるっていうその……執念。だって、僕が出版社に入った頃の“作家”なんて、どっかで飲んだくれてるとか、銀座行ってるとか、そんなんばっかりなんですもん。それでじゃあ書いているのはなんなのっていう、そういう状態でしょ。でもあの2人、とことん働くんだもん。2人とも仕事するときは土日祝日なし、朝の9時から午前4時まで働いてましたよ。その間もね、昼飯だ夜飯だなんて関係ないですよ。こんなに働くやつがいるんだなあと思って(笑)。そりゃ僕の人生変えちゃいましたよ。そこだけは僕、認めますよ。
太田:高畑さんのスタッフもみんな言ってましたもんね、あんなに働く人はいないと。
鈴木:さっき朝の9時から午前4時って言いましたけど、高畑さんの場合、それがだんだんズレてくるんですよ。忘れもしない、『じゃりこんこチエ』を作ってるとき、(高畑さんの)出社が午前0時だったんですよ。
田中:夜中出社(笑)
鈴木:当然ほかのスタッフは帰ろうとするでしょう。そうすると「なんでみんな帰るんだ」って。
太田:なんでって(笑)
鈴木:「監督が来たんだ、みんな残るべきだろう」って。
太田:それはまあもっともですけどね。
田中:でもその時間に出社されるのもね。エンドレスになっちゃってね。
鈴木:それでスタッフも考えて、お昼に高畑さんを迎えに行く。そういうことが始まったっていう。
太田:『かぐや姫』も、もーう、大変だったと(スタッフの)みなさんおっしゃってて。で、その制作発表の記者会見で(高畑さんは)「スタッフに感謝はしてない」って言っちゃって、……って話をされてましたよ。
田中:(笑)
鈴木:よく覚えてらっしゃいますね。
太田:覚えてますよ。
鈴木:あんなことよく言うなーと思っちゃって(笑)。「ふだん一緒に作品を作ってるスタッフに感謝したことがない」ぃ? なんでそんなこと言わなきゃいけないんだよ(笑)。
田中:どういう意図だったんですかね。
太田:だからつまり、仕事だから当然だろうっていう。
鈴木:そういうことですよね。当たり前のことやっておいてなんでいちいち感謝しなきゃいけないんだっていう。
太田:とは言うものの、ですよ(笑)。
田中:鬼ですね(笑)
太田:人間としてどうかっていうことですよ。面白いですよねー。それで子どもたちに夢を与えてるんですから、そういう人たちの作品がね。

一途な宮さん

鈴木:宮崎駿も面白くてねー。社内試写ってやるじゃないですか。『かぐや姫』を観てね、誰が「良い」と言い、誰がそうじゃないか……
田中:訊くの?
鈴木:リストづくりですよ。
江藤:で、どうするんですか。
太田:(笑)。「あいつが褒めてたな」って。
田中:もしかしたらじゃあ太田さんも褒めてたから太田さんもリストに入ってるかもわかんない(笑)
太田:わー、入ってるかも(笑)
鈴木:なかなかな人ですよ、2人とも。
太田:でもやっぱり、ジブリファンっているじゃないですか。(宮崎作品、高畑作品)どっちも好きっていう。僕なんかは宮崎きらいですけれども。
鈴木:(笑)
太田:どっちも好きって人がいて、やっぱり2人もう1度一緒に……って声もあるでしょう。
鈴木:その声は大きいですねえ。
太田:でしょう。
鈴木:これははっきり申し上げるとね、それを望んでるのは宮崎駿なんですよ。
田中:ハー
太田:でしょう、むしろ、高畑さんのほうが難しいわけでしょ。それが意外なんだよね。
鈴木:高畑さんの言い分はわかりやすいんですよ。途中までは同じ考えを持って歩んできたけれど、途中から道は分かれたじゃないか、そんな2人がなんで一緒にやるんだ、って。
田中・太田・江藤:うーん
鈴木:涙ぐましいんですよ、宮崎駿は。『かぐや姫』やってるときに、なかなか制作が進まないでしょ。で、高畑さんがある部屋で絵描きに怒ってるわけですよ、「こういうのが欲しいんだ!」って。それをね……隠れて聞いているんですよ。
田中:宮崎さんが?
鈴木:そう。それでね、自分の席へ戻って、(高畑勲からスタッフに)注文のあった絵を描くんですよ。
田中・太田・江藤:うわー!えー!
太田:かーわーいーいー!
田中:片思いする女の子みたい。え、ほんとに?
鈴木:で、高畑さんは昼から来るんだけど、宮さんは早起きだから朝からいるでしょ。そうするとね、朝のうちに(高畑さんに怒られてた)絵描きのところに行って「こういう絵を描くんだ!」って、自分の絵を見せるんですよ。
太田:うーわー、いい話!
江藤:涙が出てくる
太田:片思いだねほんとに……
田中:それは……高畑さんは
鈴木:知らないです。知らないですよそれは。宮さんってねえ、ほんと一途なんですよ。
太田:ほんとに素直な人なんだねえ。
鈴木:2人が作った作品は、そりゃ違うかもしれないけど……まあ、ねえ。面白い2人ですよね。
太田:だからやっぱりそこが(その2人をもう1度組ませるのが)鈴木さんの、出番じゃないですか。
田中:GMの(笑)
鈴木:宮さんが高畑さんにむかって「一緒にやろう」って誘うのは、1度や2度じゃないんですよ。じつを言うと『(となりの)トトロ』のときも。『トトロ』の監督を宮崎駿高畑勲に、正式に依頼。監督は高畑さんがいい、って。そしたら高畑さんがねえ、冷たいんですよねえ。なんにも答えない。「はあ」って言うだけ。宮さんは一所懸命に説得。でもねえ、知らん顔なんですよね。(宮崎さんが)「だめですか?パクさん」(って言っても高畑さんは)「いやあ(笑)」って笑うだけ。
太田:えー……
鈴木:それで僕、高畑さんになんで受けないんですかって訊いたら、「当たり前でしょう」。なにが当たり前なんですか。「原作は宮崎駿。僕が監督。絵を描くのは誰ですか?宮さんでしょう。サンドイッチじゃないか」と。
太田:そんな……プライドかな
鈴木:「こんなやりにくい仕事はない」と。「だって、あるときはスタッフとして居るけど、あるときは原作者として登場ですよ。そしたら一番損するのは僕じゃないですか」。
太田:そういうことなの
鈴木:そう。
太田:じゃあそれはたとえばもうちょっとこう……交通整理できないんですか。どっちも納得できるように。
鈴木:いやー……。で、宮さんもね、ずるいこと考えるわけですよ。(トトロの件でも)スタッフとしてだけじゃなく原作者としても登場できるでしょ。僕が徳間書店で働いているときもね、「鈴木さん、徳間辞めて、ジブリに専念してよ!」って。この言葉って、甘い誘いでしょ。僕が一番悩んだのは「一緒に働こう」って言ってるけど、俺の下に就けってことだよなあ、って。ね(笑)?
田中:それはねえ(笑)
鈴木:だから僕もほんとに悩んだんです、それは。だってそれまでは、僕は『アニメージュ』の編集長で映画もつくる、だったのに。これが一番良かったんですよ。あるときは編集長になればいいんだから。ところが、ジブリに行くってことは、彼の部下になるってことでしょ。さんざっぱら悩んでね。それで(ジブリに行くと)決めてから、みなさんへの挨拶状にこう書いたの。“ジブリに行く僕のテーマは1つしかない。どうやって宮崎駿とつかず離れずやるかです。”と。それでね、さっきの歌ですよ。この歌(『だまって俺について来い』)を心の支えに、やっていきます、と。歌詞を挨拶状に書いたんですよ。
太田:“そのうちなんとかなるだろう”
鈴木:そう。それしかないんだもーん(笑)
太田:……もう、誰が何(の立場)とかうっちゃっちゃってさ、ジョン&ポール(みたいなこと)でいいじゃない。それであとは2人でさ、どこを何やったって「佐村河内がやりました」ってことにすれば。
鈴木:わはは(笑)
田中:佐村河内さんはやらないから。やるとしたら新垣さんだから。
太田:そういうのできないのかなー
鈴木:宮崎駿はこの期に及んでもね、やっぱり一緒に作りたいんですよ。だからね……
太田:それちょっと俺も出ますよ。説得しにいきます、パクさんを。
田中:パクさんとか言わないからお前は。 ……はい、このあと交通情報も挿みまして、鈴木敏夫さんにはまだまだお付き合いいただきます。