活断層と英会話

これからお祈りにいきます (単行本)
起き抜けに津村記久子『バイアブランカの地層と少女』(『これからお祈りにいきます』所収)を読み始める。京都嵐山に住む大学生男子が主人公の物語で、主人公は高校生の頃に好きな女の子に「あなたの家の直下に活断層がある」と指摘され、よくわからないけど好意的な言葉ではないらしいと受け止め失恋した。大学生になってまた手痛い失恋をし、フラレた原因は自分の鈍くささにあるのではないか、人から頼られるような特技があれば、と外国人向けの京都コミュニティサイトへ英和辞典を片手に出入りするようになる。そのサイトでとあるアルゼンチンの女性とやりとりすることになり……というところまで読んだ。
あーわたしが何かしらで有名人になってテレフォンショッキングに間に合っていればこの話をタモリさんにしたのになー、活断層と嵐山ならタモリさんも興味持ってくれそうだ、と昨夜みた『怒り新党』でタモリさんに立派な活断層地図を贈っていた夏目三久さんの顔だけ思い出しながら(名前をど忘れして「三の字が入ってるあの子」と雑に思いながら)(タモリさんにお礼できる関係が少し妬ましいのであえて名前を思い出す努力も怠った)布団を出る。
朝ごはんを食べながら録りためていた正月一挙放送の『ドキュメント72時間』9本のうち、特にテーマは選ばず放送日時分が最新のものから見た。「新宿 巨大旅行カウンター」の回。新宿のHISだった。店の前を通りかかったことはあるけど、店内はあんなに広いのか。
たのしい観光だけではない、いろんな事情の旅の相談。ホノルルマラソンに1人で行くという年配の男性に取材陣が他愛なく「ご家族は一緒じゃないんですか」と訊いたら「妻は4年前にがんで」亡くしてしまったとの返答。もしわたしがインタビュアーだったら、たじろいで勝手なフォローをして話をうやむやにしそうなものを、番組取材陣はそのまま男性にカメラとマイクを向け続けて、男性が、警察の定年退職直前に奥様を亡くしたこと、今は警備員として働き、年に1度のホノルルマラソンを楽しみにしていること、ホノルルマラソンは明け方から走り出す、自分の走りだとちょうどダイヤモンドヘッドのあたりで日の出を見られる、それがじつにみごとである、というところまで淡々と引き出して圧巻だった。
80代(にはとても見えない、60代と言われても納得するような若さ)の男性を番組のナレーションが「おじいちゃん」と呼んでいたのがすこし気になった。定点観測するなら人の呼び方もニュートラルに「男性」でいいのになあ、と首を傾げて見ていたら、その80代の男性は、旅の予定の話を終えたあと、自分の娘はイルカであると嬉しげに取材陣に告げた。テレビの前のわたしはとっさにラッセンの絵を思い出したが(まだ寝ぼけている)、インタビュアーは即座に「♪いま〜春が来て〜きみ〜は〜、の?」と歌ってみせた。男性はうんうんと嬉しそうにうなずく。歌のタイトルが出てこなかったとしてもファインプレーであった、と脳内のラッセン絵を打ち消して褒め称える。
番組ではたまに顔にぼかしの入った人が登場したりしてハッとする。当然だがつまり他の顔を出している人々の承諾はとってあるんだな、と。“72時間 定点観測”と単純な趣旨をうたいながらこの番組が繊細に根気よく作られていることを改めて思う。
いろんな事情で海外への航空チケットを取ろうとする人たちを見ていて、そういえば自分は卒業旅行以来、海外に行ってないんじゃなかったか。そもそも旅行じたいにあまり興味を持たずに生きてきたが、ダイヤモンドヘッドの話を聞いたら「いいなあ」と思えた。今年はお金をためて来年あたりどこか行こうかなとすこしワクワクする。ふと起き抜けに読んだ小説のことも思い出し、お金はともかく、ひとまず英語に触れてみようかとNHK英会話講座の番組サイトを眺めた。