「本当」がない「本物」たちのショー


 リアルタイムでは見ず、けさ出勤前に視聴。わかってたけど朝の仕度しながら見ていい番組じゃなかった。見終えて、ニヤニヤしたまま家を出る。月曜の朝らしくない。駅について乗った電車の中で思い返したのは宮沢りえのことだった。スナックのママに扮する彼女がとてもいい。
 いつまで美しいんだ宮沢りえ。いや、「いつから」こんなに美しいんだ宮沢りえ。今の彼女のたおやかさを少しでも正確に一般家庭へ届けるため導入されたのが地上デジタルテレビ放送だと聞いた。ちがうかもしれない。が、総務省も動かざるを得ないレベルの透明感。その限りなく透明に近い彼女に見とれる一方で、ママ役としての、客を迎える主人としての切り返しの華麗な骨太さに目を見張った。正直いうと、前夜のTLのにぎわいから予想していたタモさんのやりたい放題よりも、りえちゃんのママっぷりにハートを奪われる。彼女のそれは41歳とは思えぬ美しさ、ではなく、41年いきないと得られぬ美しさだと教わる。
 タモさんが演じる大阪の工場の社長。その社長がビール飲みつつヘラヘラと語るのだが、それに対してりえママはただ相槌を打つのではなく、社長の話を展開させる一言を添えていく。店に居合わせた大友さんや能町さんの反応からすると、社長とママのやりとりはおそらく即興と思えたのだがどうか。
 着物は出来上がるまでの手順の多さがいい、せやけどウチのは着物、着らんなあ*1、ゴムのスカート履いとるんが気に入らん、やっぱりだいじなのは"締める"ということやな、と社長がブツクサ言うと、りえママは「そうですねえ。だから気を引き締めるとも言うんでしょうかねえ。……ま、着物は脱がせるのも楽しいですもんね」と返す。ぎょっとして固まり、直後くずれるように照れてニヤつくことしかできない社長。しばらく言葉が出ず、ビールを飲み、デレデレしながら「ぬ、ぬ、脱がせるバーやないねんな」とまだママの大胆発言を引きずっている。その後も、62年も生きるといろいろだ、と(デレデレから仕切り直して)言う社長に「奥様ひとすじですか?」と訊いて、いやいや……一回だけ、と情事を語らせたり、その語りぐさに「一回じゃないでしょう?」と上目遣いで詰めては社長をタハーとさせたり。とにかく、りえちゃんの切り返しひとつひとつの踏み込みかたや惑わせかたが、これぞ手玉というかっこよさだった。行ったことないけど、湯島のスナックだ。まさかこんなことで彼女に心を掴まれるとは思わなかった。
 と、芸歴30年めの宮沢りえさんにゾッコンの旨を書いたが、やはりなんといっても32年の昼の顔を終えた芸人純度100%のタモさんに興奮した。伝説と粗い映像でばかり見聞きしてきた「タモリ」が、地上デジタルテレビ放送で、映像の鮮明さや双方向サービスの甲斐などまるでなく流れている。
 『ヨルタモリ』。夜タモリであり、寄るタモリであると何かで読んだ。夜のタモリに寄り過ぎて何かの拍子に破裂したのか。朗々と歌い上げるフラメンコ歌手を取り上げた音楽番組、ハエをターゲットにした虫ドッキリ。それを見ている湯島のスナック(それらを薦めた蕎麦屋のおばさん)。番組を結ぶ偉人の格言。どれも本当でない。SACB-46。弟。わからない。オープニングの英文。関係がない。ただただくだらない。おかしくてたまらない。本物のバラエティだ。本当でないことを次々と繰り出せる、延々と続けられる、本物の芸達者たちのショーが始まった。

*1:ところで「着らん」って福岡の言葉ではないかしら