鍋もカレーも寛容だ

 湯がいたうどんをゆうべの鍋に投入して朝ごはんとし、出勤。

 4月以降に自分が参加すべき会議の概要と増える業務についてのメールが上司から届いていた。4月から立場が少し変わるのでその案内だ。お給金が少しだけ上がるぜ、と思って臨んだ新設の役職で、当然だがお給金とともに責任も増える。これだけ休めたのも今年度までか……と一瞬あきらめつつ、いいや、それでも俺は休んでみせるぜ、と姿勢をただす。
 年度替わりに向けてどっちゃりと仕事がある。きのう休んだし残業も辞さない覚悟だったが、ルーチンでやるものでなく1つ1つ初めて考える工程が多くてチョコレートをかじりながらうんうんやって、定時には頭から煙があがっていた。今ここでさらに新たに何かに手をつければなんらかのミスをするだろう、と脳内の予言者がのたまうのできっぱりと退勤する。

 職場から新宿までの3駅4kmを寒くなる前ぶりに歩いた。ポケモンの誕生日なんだそうで、ポケモンGOには浮かれた帽子のピカチュウばかりが出てくる。
 新宿のルミネエスト6FにあるHMV(すごくせまい)にむかい、星野源の新譜と特典のクリアファイルを受けとる。HMVからエスカレーターまでの道のり、そして下りていくエスカレーターから見える各フロアに春の物があふれていて物欲が刺激され、桜の花びらを模したマスキングテープや服屋にならぶ銀色のローファーなどを手にとってホワワ……となるが、それぞれ「使える期間が短いよ?」「服屋で売ってる靴は苦労するわよ?」とマインドBが説得してきて、はーいと素直に買わずにルミネエストを出た。

 地元駅に着き、これからスーパーにむかう旨のメッセージを夫に送ると、むかう、と返ってきた。どうやら少し前に地元駅について本屋にいたらしい。スーパーで待ち合わせ、サラダの材料のみを買う。帰宅し米を研ぎ、まだ残っているゆうべの鍋にカレールーを投入し、炊飯器の「急速炊飯」を押し、わたしが洗濯物をたたむあいだに夫はサラダを作っていた。炊飯器が炊きあがりを歌い、鍋残りカレーとサラダ(春菊、セロリ、焼いたクルミに醤油みりん酢オリーブオイル胡椒をあえる)をいただく。夫はヱビスビール、わたしは白ワイン。きのう、あわてて鍋の材料を買ったら、高級食材があるわけでもないのに種類と量によりそれなりの値段になり、ああやっぱり鍋って贅沢品だなあとレジで気合いを入れ直していたのだが、こうして鍋→うどん→カレー、と大人ふたりが3食も楽しめたので結果そんなに高くなかったと満足しながら味わう。カレーにひたった厚揚げがうまい。来る物を拒まず、行く末を問わず、鍋もカレーも寛容だ。

 食後しばらくは機嫌よくロンリーチャップリンのハモりの練習などをしていたのだが、星野源の新譜とそのプロモーションについて少しこぼした流れで、やめときゃいいのに夫に爆笑問題の太田さんと水道橋博士のいさかいの経緯を説明しはじめてしまった(先週末も話したからこれで2度めだ。夫は件のラジオも聴いてないしTwitterも見てない)。あまりのくだらなさに夫は話を終わらそうと極端な解釈を言ってくる。自分もくだらないことは重々承知しながら、ちがう、そうじゃない、となぜか食いさがった。「博士を悪く言いたいわけじゃなくて……博士が何を目的としていたのかわからなくてこわいんだ……」と自分でも話しはじめたときには思ってもいなかったことを言うと、夫は立ちあがって台所へ行ってしまった。こんな夜にしたくなかったのにと悲しくなってきて寝る。