引っ越し蕎麦

  • 蕎麦(鶏、椎茸、水菜)
  • 鱈の天ぷら玉ねぎ煮
  • じゃこ水菜ゆかりサラダ
  • ねりもの
  • スパークリングワイン

 家主は夜まで仕事でいなかった。引っ越し業者が来る数分前に到着し部屋のドアを開けると玄関にピンクのバラが一輪かざられていた。
 ジャングルジム3つほどの物を捨ててきたはずだがそれでも荷物が多くて泣きたくなる。どうせこのなかの3つぐらいしか箱を開けなくても生きられるのだろうに。
 20時過ぎに帰った家主は、玄関や台所にまでおよぶダンボール箱へ特に困った顔も見せず、淡々と夕飯をつくりはじめた。幾重にも申し訳ないが、盆暗の自分に今できることは、少しでも共有領域のダンボールを減らすことである。
 呼ばれて食卓につくと蕎麦だった。引っ越しの日に蕎麦を食べるのは生まれて初めてかもしれない。蕎麦をすすりながら、玄関のバラ、あれ、以前からあったっけと訊くと、歓迎のしるしとのことだった。