綿矢りさ『亜美ちゃんは美人』(『かわいそうだね?』所収)

かわいそうだね? (文春文庫)

かわいそうだね? (文春文庫)

表題作『かわいそうだね?』を読みかけのまま、なんとなく『亜美ちゃんは美人』のほうも読み始めて、そのままスルスルと読み終えた。
奇跡のような美人・亜美ちゃんに、どうしてか懐かれてしまった、そこそこ美人で真面目な女主人公・さかきちゃん。亜美ちゃんは、その美貌で異性からも同性からも憧れられ尊ばれる。そして亜美ちゃんが常に一緒にいたがるさかきちゃんは「亜美ちゃんが唯一、心ひらく人」と一目置かれたり「亜美ちゃんのマネージャー」とからかわれたり、とにかく亜美ちゃんありきで評価を下されつづけ、思春期らしく悩む。そんな、誰もが祀り上げる絶対的お姫様の亜美ちゃんだったが……という話。
読んでる自分が今32歳だからか、楽しい小説だったけど、よくある話だなあと、さほど心を乱されることなく読み終えた。おそらく22歳ぐらいで読んでいたら、自分をもっと、さかきちゃんに重ねて心をわしづかまれていたかもしれない。私もたしかに華奢でかわいい友だちの、マネージャー役になったり彼氏役を朗らかに担ったりして(好きな男の子の前で小柄な女の子に「ヒロちゃんみたいな彼氏がほしいな」と腕に巻き付かれたりして)、心で泣いたことはあったよ、と。
だけど、32歳の自分が読んで「ふーん」と思ってしまったのは、主人公のさかきちゃんが美人な亜美ちゃんに悩む時間は、振り返ってみれば片手で数えられるほどの年数で(その渦中にあればほんの数年でも永遠に感じられるものだけど)、悩みから脱したあとのさかきちゃんが、階段二段飛ばしで順風満帆に見えるのが、私からしてみりゃ「話が違うよ……!」というね。何も違っちゃいないんだけどさ。亜美ちゃんの顛末より、さかきちゃんが再び悩まないかとハラハラ(ワクワク)していたフシが、ひろこおばちゃんにはあったのかな。なんか自分が最近読んでる小説が30前後独身の出会わない系小説(=津村小説)ばかりなものでね……。
とはいえ、美人な亜美ちゃんを疎ましく思っているさかきちゃんが、それでも否定しようのない亜美ちゃんの美しさを言うときの表現の豊かさがとても面白かった。亜美ちゃんの美しさを言葉であらわす作業のオタクっぽさや、その作業に陶然としている具合に共感を覚えました。