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ぎおん、マーム、引越し喫茶

日記

朝から小雨。
昼にko_motoさんと待ち合わせ。原宿のぎおん徳屋へ。さんざん迷ってパフェを注文。アイスクリームにわらび餅にあんこにおかきに寒天に、いろいろどっさり入っていて食べでのある良いパフェだった。ko_motoさんから、わたしが欲しがっていたおやつや、素敵なおやつをたくさんいただく。あまりの嬉しさに、受け取ったそばからバリバリと包装紙をはがして品を見て両腕の拳をあげてヤッターと言ってしまった。
VACANTで『マームと誰かさん・よにんめ 穂村弘さん(歌人)とジプシー』を観る。これまでいろんなところで名前を目にして気になっていた“マームとジプシー”。今回が初マームのわたしが今回作品の感想をいうなら、穂村弘さんのテキスト世界にわりと律儀だと思った。自分が対する「世界」の凶暴さに怯え、そのじつ布団の中でただじっとしているだけ、という穂村世界の一片への解釈を芝居であらわしたというか。上演中、『世界音痴』の朗読での世界世界世界のくり返しに、長嶋有のエッセイの一部を思い出す。

 言語学者の伯父からバルザックの全集を譲り受けた。
(中略)
 僕はちょうど伯父がモデルで登場する小説を書いていたところだったので、草稿を読んでもらった。
「え、俺、こんなこと言うっけ?」伯父はニヤニヤ笑いながら読んでくれた。僕などより読書家で、もちろん教養差も圧倒的だ。だが教養があるせいか、文筆を仕事にしている僕を、それだけで尊重し、どんな文章も褒めてくれる。若向きの軽い文章でも「分からなさ」をこちらのせいにはしない。
 そんな伯父が草稿に対して唯一、控えめにくれた指摘は「有君、ここ『世界』って書いてるけど『世間』じゃなくていいのか?」。はっとなった。
 穂村弘以後かエヴァンゲリオン以後か、我々世代の表現はやたら「世界」を言うようになった。自分と対峙する状況を(たとえばスターバックスのコーヒーの名称が複雑化しているといった些事でも)「世界」からの干渉と捉える。だがその殆どは本当は「世間」という言葉で足りる。
長嶋有―『新刊展望』2011年11月号 読書日記「世界でなく世間を」

無意識に書いてしまえるほど、(「世間」を)「世界」(と言うことで己の凶暴な繊細さ)を親しみやすくしたのはつまり穂村弘である、とわたしはこのエッセイから受けとっていた。ので、ステージの役者が世界世界世界と泣き叫んでいるのは、風呂から飛び出したアルキメデスが「エウーレカ!」と叫んだ場面に相当するのかなーと思っていた。
当日パンフレットに次回作の予告があり「マームと誰かさん・ごにんめ 名久井直子さん(ブックデザイナー)とジプシー」とあった。どんなのをやるんだろう。名久井さんのお仕事を前衛芝居化してたらおもしろいなあ。アクロバティックに紙を切ったり貼ったりして。華麗に「シアン下げて!」って言ったりさ。などとくだらなく考えながら終演後の会場を出ようとすると客席に名久井さんご本人もいらしたのを見かけてなぜかラッキーと思う。「ごにんめ」も楽しみにしてよう。
かわいそうだね? (文春文庫)
表参道を買い物がてらねり歩き、ko_motoさんと途中で別れ、1人で青山ブックセンター本店に行くと、店内に、祖父江慎さんと名久井直子さんの写真入りのイベント告知ポスターが貼られていた。どこにいっても名久井さんを見る。だいたい、今日のわたしのバッグの中には読みかけの『かわいそうだね?』(装幀:名久井直子)が入っていたし。
駒沢大学駅に移動。渡邉さんが開催する「引越し喫茶」に向かう。「引越し喫茶」とは、引越しを終えて空き家状態になった“前の部屋”に知り合いを招いてもてなすイベントらしい。今回は渡邉さんのお友だちが引っ越していったあとの部屋を借りて催すそうな。
行ってみると、“空き家”のはずが、テーブルやイスや座布団やラグやカーテンや大量の調理器具や食器や食材や酒瓶や冷蔵庫があった。「これ……持ち込んだの?」と訊くと渡邉さんは「一部は友だちが置いていってくれて、他は持ってきた。……ばかでしょ」と半ベソで笑った。部屋に来るひと来るひとが「これ終わったらまたここから出すんだよね?」「ほぼ住んでる状態じゃない?」と確認してそのたび渡邉さんは「ばかでしょ……」と自責で返答していたのがおもしろかった。

【引越し喫茶メニュー(コース)】

  1. 春キャベツとゆで卵のサラダ
  2. 椎茸オイル漬け
  3. ポトフ
  4. 燻製たまご
  5. いろいろ芋のフライ
  6. 蓮根のたらこ詰め
  7. モッツァレラと林檎の薄切り
  8. ローストポーク 筍添え
  9. 紫蘇・昆布おにぎりとぬか漬け
  10. 金柑煮とプリン

「引越し喫茶」と謳っているがおよそ喫茶のメニューの幅でないし空き家で食べるレベルでない。もう、駒沢大学にある小粋なビストロだ。こんや集まった“引越し喫茶の客”はわたし含め6人で、この品数ぶん、料理ごとに新しい揃いの食器が6人前出てくる。招かれている身でも搬入出を思うと気が遠くなった。ひと1人が普通に住む以上に物があるのではないか。料理はどれも「お店やってよ!」の美味しさで、住むための家具がない部屋は本当に店のようだった。コースターが座布団カバーとおそろいで、聞くとこれもこの喫茶のために自分で縫ったそうな。手作りのモビールも揺れていた。そういえばこの引越し喫茶の案内用のホームページもあった。ブログやFecebookとかではなくHTMLを組むタイプのホームページであった。
男性客の1人が部屋の間取りを興味深そうに見てまわる。空き家だから遠慮なく見ていい。引越し喫茶ならではの楽しみかただ。
わたしはさやかさんと同じテーブルにつく。渡邉さんの妹さんがキビキビと運んでくる料理ごとに「おいしい……!」とのけぞりながら、約3時間にわたって『ポータル2』ほかゲームの話、ラジオやおもちゃの話をしつづけ、今度トイザらスツアーしようということになった。そこでジグソーパズルも探してジグソーパズル合宿もやろう。まずは『ポータル2』大会だ。小学生のようなあそびを大人の欲張りぶりで次々と企画しあい約束した。
にょっ記 (文春文庫)小学生な約束をしたさやかさんからタモリカップビールをいただく。ずっと欲しかったおもちゃをもらった子どもみたいに、帰りの終電の中で何度もビール瓶を取り出してはニヤニヤした。
たしか『ポータル2』大会をやることになったのは、穂村弘『にょっ記』(イラスト:フジモトマサル/装幀:名久井直子/文庫解説:長嶋有)の表紙が「ポータル2みたいだ」と渡邉さんが言ったのがきっかけだったな、と思いだす。