中田敦彦『芸人前夜』

芸人前夜 (ヨシモトブックス)

芸人前夜 (ヨシモトブックス)

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おもしろかったー!
まず装丁。カバーの、写真については前回触れて、で、もうひとつ、カバー下。わたし買った本は読む前にカバー剥がして丸裸にするのが好きなんだけど、これ読む前に剥がしたヒトならギョッとするよね。ギョッとしたもん。でも、日本のどこかの街の家々(カバー)のどれかの中にいる、まだ知られぬ誰かの鬱屈した思い(カバー下)、って、空から大学ノートまでぐーんとズームアップしてるみたいですごく面白い。装丁は川名潤さん。
内容。もー、「あっちゃんめんどくせー!」「あっちゃんまじめー!」「あっちゃんなさけねー!」って、「あっちゃん○○○○ー!」のテンプレートにあてはめて心のなかでいろいろ叫びましたよ。熱心なオリラジファンではないわたしでも易々とテンプレートつかいたくなるのは、オリラジふたりのキャラとこのギャグがビシッと決まってるからだよね。
なんかね、大学サボってかよってたNSCでのあっちゃんの振る舞いが、完全に優秀な受験生のそれで、笑いながらも感心した。NSCに入る前にすでに100本のネタのストックがあって、ネタ見せの授業前はそこから選ぶだけの作業だったというところに、一夜漬け人生のわたしは恐れ入りましたよ。そういえばNHK仕事ハッケン伝ジブリ×中田敦彦回の『風立ちぬ』新聞広告用キャッチコピーを考えるときもあっちゃん、100本以上のコピーを書き出して、そのうえでウンウン唸ってたのが印象的で。中田敦彦はひとまず100を揃えてからスタートに立つ人なんだなあ。こりゃ受験だろうとお笑いだろうと会社仕事だろうと、抜きん出かたハンパないよね。オリラジがNSC卒業後すぐにテレビに出たのは必然だった。この本読むと、組織で厚遇受けてるように見える人とかを安易に妬まなくなるかもしれない。武勇伝の元になるネタはNSC入学前の100本のなかにすでにあった(『風立ちぬ』の採用コピーも100本のなかにちゃんとあった)。
で、この本のなかの藤森さん。超天使、超男前。こんな理想的な友だちいるのかよ、って思った。まあ藤森さんご本人もAmazonレビューで「僕がいい奴に描かれてて好感度がアップしてる」と書いているけど、でもあっちゃんフィルターではそう見えたんだろうし、あっちゃん史ではこれが事実なんだよね。あっちゃんの殻をあっけなく破る慎吾、100のネタから光のタネをなんとなく拾い上げる慎吾、要所要所で藤森慎吾という人がめちゃくちゃ天使なのが爽快だった。
芸人を目指す一方で、ファミレスでの童貞会議や好きな子とのデートの場面もとてもとても良かった。恋の表現が白目むくほどロマンチックでよお。シビレルーッだよ。ジョナサン童貞会議で大学生のあっちゃんが一席ぶった"モテる奴がモテる理論"もさ、32歳で独身女のわたくし、先日そのまま受け売りで年上の友だちに言いましたからね。サイゼリヤで。
あとミーハーなわたしには、この小説にちらほらと実名で出てくるあっちゃんと同年代の有名人も「へー」と思えた。同期の芸人だけでなく、のちの女子アナの誰々さん、とかさ。
240ページで終わるこの小説の、239ページのあたりに、グォォォ……ぅあっっっぢゃんぐゎっごいいいいいいいいと大トトロもシビレるようなやりとりがあって、炭酸飲料を一気飲みしたような、爽やかで涙目の読後感でした。
こないだシアターモリエールで見かけたオリラジ単独ライブのポスターが良かった。新興宗教オリラジ教。"そして10年後―――"というページを挿んでこの本の巻末におさめたいような。