川島明プレゼンツ『芸人達のベストフレンド』vol.2

 匿名で投じて評しあう俳句の句会や、親の1人を嬉しがらせるプレゼン型大喜利のスタディゲーム(©バッファロー吾郎Aさん)をまぜたような、とにかく楽しくて幸せな気持ちになるゲーム。親が順番に変わっていくのも全員主役になる時間がきていいですね。 ↑にリンクしたすごろくやの紹介ルールに加えて、川島明プレゼンツのベストフレンドは「他の誰かとかぶってはいけない」「親はあつまった回答を順位に関わらず好きな順番で発表して良い」「原則的に1位しか名前を明かさないが、親はどうしても知りたい回答の作者を尋ねることができる」というルールなども。
 イベントタイトルに「芸人達の」とあるけれども今回は1人、小説家の西さんが。西さんは川島さんとネゴちゃん以外とは全員初対面とのこと。西さんの紹介として川島さんは「今年の春に、僕のNHKのラジオのゲストとして初めてお会いして、そのあと『共感百景』でもご一緒して、以来、すっかり飲み友だちです」と。わたしそのラジオも聴いてたし共感百景も行ったけど、たしかに、これは仲良くなるぞとラジオの前や客席で感じるぐらい意気投合してた。飲み友だちになって、しかも"芸人達の"と頭についた"ベストフレンド"という名前のイベントに連れてくるほど、川島さんは西さんの面白さを信頼してるんだなあ。や、図々しいですけど、川島さんの気持ち、とてもわかる。あるコミュニティで出会った人に、一目惚れのように「自分の友だちもきっとこの人を好きになる!」って確信する瞬間ってあって、つきあいが短くても別のコミュニティに誘うことってあるもんね(で、期待以上にその人はそこでも即座にみんなを惚れさすんだ)。この春知り合ったばかりの西さんをディープめな自分主催のイベントに招いた川島さん。彼の、コミュニケーションや信頼の動線を見たようで、冒頭から胸がほくっとした。あと西さんはほんとにどこに行っても一網打尽に惚れさすなあとも。
 長時間のゆるやかなライブなのでレポ書くつもりなかったけど、転校生の西加奈子さんがどんどんみんなのハートを奪っていく様子が嬉しくてたまらなかったので簡単に(西さん中心に)覚えてることだけ書いときます。

親:川島

 まずはルール確認も含めて川島さんが親に。山札から引いたお題カードはこちら。

《お題》
一番好きな英語のフレーズは何?

 川島さんが好きそうな英語のフレーズを匿名で書く。アルファベット表記でもカタカナ表記でも可ということに。井上さんは「英語なんて調べないとわからない」とiPhoneを取り出す。

《回答》

 しょっぱなからいきなり「I am monster.」で、このイベントへの期待がさらに高まる。この回答も好きだしこれを初めに紹介した川島さんも好きだー(名前明かされてなかったけど、これ書いたの西さんじゃないかな?)/1位に選ばれた「リチャード・ギア HACHI」を書いたのは井上さん(iPhoneで……調べ……た?)。 井上「昨年末に川島が『HACHI』って言ってたの2回ぐらい聞いたから」好きなんやろなと。 回答の文字「リチャード・ギア」の「ギ」があやうく「ぎ」と書きそうになってるゆがみまで川島さんは指摘してた。お互いによく見てるなー。/「フランチャイズ」は馬場園さん。 川島「夢がある。大好き。でも英語のフレーズ、って言われてフランチャイズって……外国のひとが言うてるのも見たことない」 馬場園「ええ、満を持して書きました」

親:馬場園

《お題》
この中で一番センスがいいと思う人

 このお題に、センスってなんのセンスやろ? しかも他の人と回答かぶっちゃいけないからむずかしい、とみんな首をかしげる。じゃあ、誰々と名前を書いたあとに何のセンスについてか、というのも書きましょうと川島さんがルール追加。詰まったら、より面白くなりそうなほうにルールを展開させる機転。テーブルゲームって何をやるかでなくて誰とやるかだなとつくづく思う。

《回答》

  • 2位:西さん(今日の髪のお団子のセンス)
  • 3位:川島さん(同期でキレのあるボケをくりだす)
  • 1位:向井(おつかいいかせたら)   ※表記ママ
  • 4位:わたし 小説
  • 5位:愛敬のセンス ネゴシックス 

 馬場園「たしかに彼(=向)はおつかいがうまい。以前、なんかお茶買ってきてって頼んだら、まさに飲みたかった爽健美茶を買ってきてくれた」 向「これ僕のことすごく知ってる人が書いたはずやのに、名前に"井"が……」 自分の名前が間違えられたと抗議したそうな向さん。すると川島さん「では急遽マルバツゲームにしときましょ」と言って"向井"の井の中に○や×をすみやかに書きつけ、"井"ではなかったことに。このとっさのマルバツゲーム書いていく様子がかっこよかった。パパパパッと書いてたけど、ちゃんと○と×を交互に書いて引き分けにしてるの。どんだけピースフルに気が利くんだ。 そんな一悶着も起こした回答を書いたのは井上さん。/匿名回答なのに「わたし 小説」と書いてたのは西さん(可愛い……)。

親:西

《お題》
私の一番気に入ってる長所はどこ?

 川島さん、ネゴちゃん以外とはみんなと初対面の西さん。直接的でないことなら質問してヒントもらってもいいですよ、ということで「ご結婚は?」と聞く向さん。井上さんは西さんを頭の先からじっくり見ていた。

《回答》

  • 1位:サンマをきれいに食べて一人でも手を合わせてごちそうさまをする私
  • 順位なし:無人島に流れついてもやっていけちゃう
  • 順位なし:スッピンでもけっこう平気
  • 順位なし:手羽先を上手に食べる所
  • 順位なし:王様のブランチで小説家が集まってしゃべる企画の時にけっこう笑いがとれた
  • 順位なし:爪の白いところが広い

 1位について西さんは「これ、まさにそうなんです! 1人でいても誰かに見られてるんちゃうかと思ってちゃんとしてしまう。細かいこと気にしないみたいなイメージ持たれること多いからこれはすごい嬉しかった」 書いたのは川島さん。さすが!/1位以外はどれもピンとこず順位をつけなかった西さん。このイメージの齟齬も初対面ならではで、おもしろい。 それぞれに西さん「無人島……そう、よくバックパッカーっぽいとか言われるけど、豪華なホテルめっちゃ大好き」「ゴリッゴリに化粧します」「手羽先、まあ、そうです」「王様のブランチ、見てくれはったんやーってびっくりしました」「爪、これ井上さんでしょ! さっきむっちゃ見てはった」といった具合。爪のは井上さんでした。/「王様のブランチで〜」を書いたのは向さんで「たまたま見てたら出てきてはって。で、じつはその放送でご結婚されてることも知ったんですけど、知らないふりしてあえて聞いてみました」と言うと、会場からヒェェェェと爆引きの悲鳴が。ま、向さんのキャラもあってお客さんも過剰に引いてみせたんだろう。しかしなんでそれがダメなのか、自分も説明できないけど、わたしもすこしエー……って声でた。

親:向

《お題》
私が好きそうな80年代風ドラマのタイトルは?

 そんな向さんが親になって今度はこのお題。既存の作品でなくてそういう感じのドラマタイトルを作る。80年代ってどんなドラマがあったかな、『毎度おさわがせします!』とかあった、向やったらエロいのが好きそうやんな、じゃあもうエロいタイトルって条件にしよかと中学生みたいにみんなで囃し立て、向さんも僕だけなんでエロ限定なんすかと憤ってみせるひとしきりのやりとりが終わり、まあエロいタイトルにしようってのは冗談で、好きずきに〜……ってなったところに西さんが「え!? もうエロいタイトル書いてしまった!」。たしかにみんながエロいのエロくないのと盛り上がってるとき、西さんだけ1人ペン走らせてた。西さんはみんなと初対面なのに(初対面だからか)お題が出るといつも即書き始めるんだよね。 川島さん慌てて「みんなもエロいタイトルで書いて!」。

《回答》

  • 3位:ビキニのあの娘はプリンプリン
  • 2位:月とポニーテール
  • 1位:ホテル 〜 PAKU・PAKU
  • 5位:風の谷でナニシタ?
  • 6位:ナニがお騒わがせします!   ※表記ママ

 ビキニという語が80年代っぽくていいね、「月とポニーテール」はエロそうだけど情緒がある、などと言っているところに出た1位「ホテル 〜 PAKU・PAKU」。 川島「『ホテル』っていうドラマがすでにあるのに!」 井上「PAKU・PAKUって、抱ききってはないですね」 川島「テレ東かな」 書いたのはなんと……西さん! 西さん、エロいタイトルと聞いてすぐさま書きつけたのがこれ……!/「風の谷でナニシタ?」は井上さん。 川島「エロくてもあくまでドラマのタイトルでお願いします。これ完全にAVやないですか」 /「ナニがお騒わがせします」と書いたネゴちゃんに「(シンキングタイムで)『毎度おさわがせします』って1度出たし、あと騒ぐに"わ"の送り仮名いらないから」と諭す川島さん。「まったくこのナニ兄弟は!」

親:池田

 22時近くなり、やっとしずる池田さんが参加。ルミネでの新喜劇の出番があったのだそう。 vol.1に出演したしずる村上さんから川島さんに「池田もいいですよ」と推しがあったので2ヶ月前からオファーをかけていたのに、会社の手違いでダブルブッキングされてしまっていたと。うーん、なんだか大変だな(しかし村上さんのエピソードが男前だ)。 池田さんも西さんとは初対面らしい。駆けつけ一番で親をやる池田さん。

《お題》
私が絶対感動するものって何でしょう?

 みんなが考えているあいだに会場を見回し様子をうかがう池田さん。すると川島さんが「シンキングタイムのあいだは親がアカペラが歌うんやで。シンキングソング。好きな歌でええから」と嘘をさらり。池田さんは「あっ、そうなんすね」と疑うことなく「じゃあ、GAOの『サヨナラ』を」と言って、すぐさま朗々と1番を歌いきる。これがですね。池田さんの腹からの歌声がすばらしかったのと、一瞬もためらわず、不安なく歌を披露した度胸にわたしは感動してしまった。おそらく直前まで新喜劇に出てたのもあってノドと気持ちがあったまってたのかな。うろたえたり、声や歌詞が出なかったりするんだろうなと少し構えて見ていたので、すっかり魅了されました。
 みんなの回答を集める際、池田さんは誰から受け取ったカードかをわからなくするためか、なぜか手前の映写機の下にカードを隠し、奥に入れすぎて出せなくなって映写機持ち上げてひと騒ぎという場面も。けっこう天真爛漫なんだな(さては、と思って調べてみたら池田さん、やっぱり末っ子だった)。来てすぐ、たった数分で場を持ってくスター性。仕事で遅れてきた彼に花を持たせる先輩たちもすてきだった。

《回答》

  • 4位:金のない若手芸人が、ラーメン屋でラーメンを注文、だが運ばれてきたのは…。「あれ?俺チャーシューメン頼んでないよ?」店主のいいってことよ、という顔
  • 3位:アフリカ系の選手が水泳でがんばってる様子
  • 5位:アントニオ猪木、人生最後の試合。ふがいなく負ける。「1、2、3、ダー」をやろうとする。でも「1、2」で死んでる。
  • 6位:和室にやどかりがいる
  • 2位:ソーラン節をいっしょうけんめいしてる若者たち
  • 1位:独立

 5位について池田「俺、アントニオ猪木、そんなでもないし、あと自分の感動を大喜利にされたくない」とバッサリ。/6位。 池田「好きじゃないとかじゃなくて、ちょっと芸術的すぎて俺にはわからない……」 書いたのは馬場園さん。「和室に、やどかりがおるんやで? あるはずのないことが起こってるということに、無邪気に感動する池田でいてほしかった」と、少年の心を失いかけてる後輩に嘆いてみせる馬場園ねえさん。/池田さん、1位のカードを映写機で映す前に「これは、自分の思っていたことを遥かに越えていて……。こういうことに感動する、と思ってもいいんだと知らされました」と言ってから見せた回答が「独立」。オオーッと揺れる会場。 池田「(興奮気味に)これを見て、俺が思う独立ってなんだろうか? 俺は果たして独立できているだろうか? と問われた」 書いたのは西さん。 西「こないだスコットランドの独立投票があったでしょう。あれで結局だめやったのが、すごく悲しかったんですね。独立できるといいなと思って書きました」 川島「池田にスコットランドを重ねたと」
 この「独立」のくだり。池田さんが自分に問いかけた言葉が、どこか遠い国の政治のホットワードだったっていう、この状況にもわたしは感動した。『西加奈子と地元の本屋』での西さんと津村記久子さんの対談でも話していたけれど、どこかの土地の誰かの個人的な描写に、離れた土地の知らない誰かが「これは自分のことでは」と深い共感を呼ぶことが小説にはある、その一例を見たような瞬間だった。

親:ネゴシックス

《お題》
「オッパイ」の前後どちらかに単語をつけて私を喜ばせてください

 回答時、川島さんが質問として「好きなものランキングでオッパイより1つ上なのは何?」と聞くとネゴ「(特に悩まず)茶碗蒸し」。

《回答》

  • 4位:オッパイプレート
  • 5位:オッパイ用スニーカー
  • 3位:オッパイをいつでも触って良い券
  • 2位:料理の皿のフタがオッパイ
  • 6位:漫☆画太郎が描くババアのオッパイ
  • 1位:塩オッパイ

 6位に対して ネゴ「漫☆画太郎さんのマンガも大好きだしオッパイも大好きだけど、そういうことじゃない」/1位を書いた川島さん「彼が読めるのは5文字までやから」 なんだその照れ隠し(可愛い……)。

親:井上

 最後なので特別に、親がお題カードを見て選ぼうということに。井上さんが選んだお題はこちら。

《お題》
エロくないけど深読みするとエロそうな単語を教えてください

《回答》

 これはもう、何が出てもドッカンドッカンと沸いたなあ。出演者もお客さんもすっかりそういう脳ができあがってた。/5位。井上「試しに乗るだけと、言ってしまっている。愛がない。エロい」 川島「ワンナイトラブですね」/4位。井上「野菜って、いろんな色や形してて、それだけでもエロいのに、それが充実してるとか……! エロい」/3位。 川島「これが3位て。これの何がエロいんですか」 井上「中で何がおこなわれてるかわからんのやで。色って字が入ってるところもエロい」/2位のカードを「こんな言葉が、そういえばあったと教えられた気分です」と言いながら出した井上さん。 井上「ずいずい、ずっころばしですよ?」 馬場園「(遊ぶ時の)ジェスチャーもエロい!」 井上「茶壺に追われて! とっぴんしゃん! ですよ!?」 川島「抜けたがどんどこしょ、て!」 井上「俵のねずみが、米食って、ちゅう!」 川島「足らへんから、ちゅう、ちゅう、ちゅう、ってそのあと3回も言うてる!」 馬場園「とんでもない下ネタソング」 この3人が『ずいずいずっころばし』の歌詞を責めるように1節ずつ確認しあってるのが、もう、めちゃくちゃおもしろかったなー。 書いたのは……西さん……! ウオーッ。 回答は匿名なのに、池田さんも井上さんも、西さんの回答を見せるときに同じようなことを言ったのが印象的だった。言葉としては知っていたけど、こういうときにも言える言葉だと気づかされた、というような。/1位。 井上「これは変態ですね……頭オカシイ」 書いたのは川島さん。これ、厳密にはお題の"単語"に則してないんだけど、井上さんを喜ばせたい一心でうっかり修飾語をつけてしまった川島さんが可愛いなーと思ってしまった。その甲斐あってか井上さんのハートをみごと射止めてました。


 途中、会場のお客さんが親をやったり、解説のオオハシさんも回答に参加したりもありつつ。今回は井上さん、川島さん、西さんの3人で点を奪い合った3時間に。仲間の好みをよく見ている井上さんと川島さんも素敵だったけれど、まだ何も相手の情報がないのに選ばれる言葉を出した西さん、やっぱり魅力的な人だと思った。相手の既存の"好き"を当てるんじゃなくて、新たな"好き"を提案してる。
 ところで、次長課長の井上さんを生で見たのはたぶん初めてでしたが、正々堂々かっこいいですね……。しかもあんなによくしゃべる方だとは知らなかった。相づちを打つようにどうかしている発言を放ちつづけていて、相当にクレイジーな方とお見受けしました。川島さんとキャッキャしてるのもよかった。
 vol.1にもまして、とても、とーっても楽しかったです。vol.3も楽しみにしてます!