ジャルジャル&倉本美津留のコント会議『あっぷくライブ』

入場時に観客に2枚の用紙が配られる。それぞれに「形容詞を1つ書いてください」「名詞を1つ書いてください」と。そしてペンネーム欄。
わたしは、次の言葉とペンネーム"ヒロコーヒー"を書いて"募言箱"なる箱に入れました。

【形容詞】 みずみずしい / 【名詞】 おでこ

 開演、3人登場。どうなるやろな〜、スポーツに挑む気持ちです、などと言いつつ、さっそくサクサクと箱から紙を取り出して読み上げる。後藤は形容詞の箱から、福徳は名詞の箱から。
 以下は、箱から出てきた言葉[形容詞][名詞]の組み合わせの一覧。★印はコントタイトルとして採用されたもの。

  1. [馴れ馴れしい][6.3]
  2. [でもねでもね][フラフープ]
  3. [しつこい][ヤドカリ] ★
  4. [めずらしい][元栓] ★
  5. [わざとらしい][BEAMS]
  6. [うさんくさい][チョコレート] ★
  7. [ふてぶてしい][トロピカル味のチキンナゲット]
  8. [みずみずしい][宇宙人] ★
  9. [しゃくれた][サラダボウル] ☆
  10. [慮る][和尚さんと小僧さん] ☆
  11. [すかんたらしい][客引き] ☆ →福徳案により「しゃくれた和尚さんと客引き」というタイトルに
  12. [そうでもない][マレフィセント]
  13. [うすっぺらい][エキストラ] ★
  14. [都合が悪い][日帰り]
  15. [めずらしい][適齢期] ★
  16. [ハンサムな][ピョコタン] *1
  17. [あつい][クリボー]
  18. [疲れきった][屋台]
  19. [楽しい][おでこ] ★
  20. [輝かしい][マートン]
  21. [芳(かぐわ)しい][気管支炎] ★
  22. [おもしろいほどよくわかる][彫刻家]
  23. [たくましい][ペロペロキャンディ]
  24. [痛々しい][祭り] ★

 2人に読み上げられていく奇跡のタイトルを聞きながら、だいたいは倉本さんが「コレやろか」と理由なしに言うことで採用となり、ジャルジャルの2人の打ち合わせもなく即暗転→明転してコントが始まる。

* * *

 圧巻でした。ジャルジャルはコントの天才である、とわかってはいたけれど、わかっていた以上に天才だった。いつも「後藤」とか「福徳」とか愛をこめて呼び捨てで書いててごめんなさい(敬称で生じる距離がもどかしいほど好きってことですよ……)。もう「後藤さん」「福徳さん」にする。……ううん、"さん"ぐらいじゃ今この敬う気持ちに敬称が追いついてない。"様"でも足りない。もうね、"猊下"って言いたい。徳の高い僧みたいなものですよ2人とも。
 そしてピチピチの白いTシャツ着た2人*2の細いのに頼もしい体つき、灼けた肌と灼けない肌がそれぞれ健康的に光ってるのがとても美しく、まことに眼福でございました。圧巻&眼福ライブ。久々にベージュのパンツで揃えてるのもなんだか嬉しかったなあ。

 ジャルジャルを愛でだすとキリがないので、本編の雑感いきますね。

  • 【しつこいヤドカリ】まずはさぐりさぐりの1本め。なるほど。
  • 【めずらしい元栓】2本めからいきなり安定していた。後藤*3がちょいちょいかますボケに福徳が「(そっちに寄せるべき…?)」って目をしながらも、それには寄らず舞台を大きく使って元栓を探したのがコントの軸になったような。キッチンのガス台の元栓の在り処で笑ったあと、福徳が、鍋を食卓でつつくためにカセットコンロを持ち出してきて、その点火で後藤がきれいにオトしたのが見事だった。/個人的には、鍋を掴んでアチチチチ…ってなった福徳がその両手で後藤の耳たぶをつまんだのがありがとうございましたね。/このネタを終えて後藤「アドレナリンが出てきました」。
  • 【うさんくさいチョコレート】ジャルジャルのコントで女役ってあんまり見たことないなーって、少女役を演じる福徳を見て思いました。秀子ちゃんかわいい。
  • 【みずみずしい宇宙人】(やった!自分の言葉が読まれたうえに採用された!)/この『みずみずしい宇宙人』という語を聞いて、後藤が「ちょうどいい小道具がありますよね」と、名和晃平さんの教え子たちが作った泡マン*4マスクのことを。たしかに、みずみずしい、宇宙人かも。/2人でこじあける展開に驚かされつつ、後藤が虚無の顔で福徳を威嚇するのがおもしろかった。
  • 【しゃくれた和尚さんと客引き】タイトル採用が決まり、「"しゃくれた"がどこまでかかるか、ですよねー…」と言い残して袖に引っ込む2人。先に出た福徳が口元を隠していたのがワクワクさせてくれる。/俗にまみれた和尚と慮る客引きのやりとりがおもしろかった。
  • 【うすっぺらいエキストラ】倉本さん案により美術スタッフの女性が1人くわわり、3人でコント。なのだけど、この女性が板付きでエキストラ役(=つまりコント上の主役)を演りだして、しかも鳥居みゆきさんを目指すかのような派手な振る舞いだったので、ジャルジャルの2人ともが相対的なツッコミに。とはいえサイドで繰り広げられる横柄な監督・後藤と若手俳優・福徳のささやかな軋轢ぶりが目を引いた。
  • 【めずらしい適齢期】これはまるでジャルジャルコントの詰め合わせみたいに、過去のいろんなネタのかけらを類想させる、美しくまとまったコントだった。もともと決めてたかのように2人のボケのラリーが続いて、観客は笑いながらも「うお〜」と感心。ネタを終えた2人いわく「小ボケが多いのは時間かせぎ」「そのあいだ頭から煙でるほど展開に悩んでた」と言ってて、か、か、かっこいい……。
  • 【楽しいおでこ】(やった!またもや採用された!)/板付きの福徳が泣きわめいて始まる。迷子になった、おかあさーん、と。たしかに[おでこ]は幼児性がある言葉だよなー、後藤があやしに来るのかなと思いながら見ていたら、登場した後藤がこの予想を一気にぶちこわす。シビレた。後藤におもちゃにされる福徳のマジかよフェイスもたまらなかったですね。福徳がなんど袖に逃げ込んでも後藤がヘラヘラしながら舞台に連れ戻して羽交い締めにしてるあたりとか、会場がドッカンドッカンとウケていて、本当の単独ライブみたいな盛り上がり方だなあ(このぐらいの時間にこういうネタが来るものだよなあ)と笑いながら感動してしまった。
  • 【芳しい気管支炎】冒頭、先に1人で出ていた町医者役の後藤による長めの一人芝居が。これがちょっとイッセー尾形的な渋さでした。パートのワカタベさんとあまりうまくいってない町医者っていう。患者の福徳が出てきてからもたまに「こういう仕事はワカタベさん、本来はあなたがするんですよ」って空(くう)に向かってイヤミを挿むのが大人めのおもしろさだなあ(今後はこういう路線のコントもどんどん見たいなあ)、と。/医者の後藤が患者の福徳に「あなた、ガム噛んでます?」と言ったのを、(2人のあいだでは恒例化している?)エラいじりと受け取って「噛んでないです、これエラです」と返す福徳。そのことを福徳はネタを終わったあとに「なんで急にあそこでエラいじってきたん」と言ってたけど(それに対して後藤は何も言わなかったけど)、でもアレ、タイトルの"かぐわしい"を後藤はガムの香りと思ってるフリしたんじゃないかと(エラいじりがおなじみとは知らない)わたしは思いました。そういう思惑のゆらぎもおもしろい。/患者・福徳が芳しいショーを終え舞台からはけ、再び1人になった医者・後藤が虚空を見つめて「いろいろあるもんやなあ」とつぶやくと、客席からは自然と拍手が起こり、それに応えるように暗転した。これがまるで、観客たちによる「今ここで終わるのがベスト!」という意思表示みたいだったなあ、と自分だって拍手をしたくせに感心してしまった。ジャルジャルや(裏で音や照明をコントロールしていた)倉本さんたちだけでなく、観客もこのコントのゆくえを考えるようになっているんだ、と。
  • 【痛々しい祭り】これはシメにふさわしい10秒ぐらいの爆発ショート。2人は揃って「このタイトル聞いたらあれしか思いつかない」と言っていたけど、いやいや、それにしたって2人の息の合いようはすばらしかったですよ! 神輿が落ちてくる追い討ちもさらに笑った。

 自分の言葉が箱から引かれて読まれたヨー、形容詞も名詞も! ジャルジャルの2人ともが"ヒロコーヒーさん"と名前を言ってくれたし(そういうシステムです)、書き手のわたしを探してくれて(そういうシステム)、呼ばれたので手を挙げたら目が合った!(そういうシ)(よかったね) しかも2つともコントになった……!(これは本当に本当にうれしかった)
  [みずみずしい] も [おでこ] も倉ジャルのお三方が強く興味を持ってくれてた気がする(自分の出した言葉だからそう思いたいの)。福徳がそれぞれ「[宇宙人]のコントってやりつくされてるから、それだけだと芸人にとってはかなり厳しいお題なんですけど、[みずみずしい]が付いて新しいイメージになった」「[おでこ]って、もしかして顔の中で一番たのしい部位かもしれん。ふつう[ほっぺた]のほうが楽しそうと思うけど(後藤「笑うとほっぺたが盛り上がるしな」)、じつは[おでこ]のほうが楽しくできる可能性が大きいんちゃうかな」と、なんだか、すばらしいことを言ってくださり。猊下。めっさええ子や。
 淡々と単語が読み上げられ組み合わされていくなかで思ったのは、出す言葉は奇をてらわないほうが倉本さんやジャルジャルがコントの種としてピンと来るらしいということ。たぶん言葉じたいがおもしろかったり珍しかったりすると、出オチみたいなもので、そこから作る側はひろがりを期待できないのかもしれない。まあこのライブとしてはみんなが出す言葉のおもしろさも見どころの1つなので、出オチ言葉も箱に入れられる甲斐は充分にあるんだけど。
 でもそういえば、言葉ありきでジャルジャルのコントがつくられるということが、ファンになったばかりのわたしとしては新鮮だった。ジャルジャルの単独を観る限り、コントタイトルがオチのことを言ってるものが多く、2人はあんまりタイトルに頓着していなさそうだと思っていたので(そこもまた天才っぽい)。だから2人がコント中に要所要所でタイトルの言葉に拘泥している姿というのが、何か新しい筋肉を使い始めている感じで、観ているほうも興奮した。ステージの2人から発せられる苦悶と好奇心のエネルギーがビリビリと。

 90分のライブを終えてみて、後藤は「やる側はめちゃくちゃ楽しい。オールナイトでやりたい」と遊び足らない子どものようにハスハスしている。一方で福徳は「終わってみると楽しかったけど、始まる前の緊張とやってるときのしんどさを思うと自分から次をやりたがるものではない」と。突撃する慎重派・福徳と、静観する破壊屋・後藤の対照的な臨み方が見えるこの2人の感想、を聞けたことまで含めてぜんぶ、伝説に立ち会っているんだと思えた。
 倉本さんはただただ感動していたのか、ライブ後のニコ生放送でもいつもより言葉が少なかったように思う。わかります。なんか本当に、白熱した試合を観たあとの脱力感がありましたよね。展開を次々と編みだす手数と判断力だけでなく、それを即座に表現できる演技の勘の良さと巧さがね。
 ライブの成功を讃えるかのように制作さんがニコ生放送中に大阪公演の決定を告げる。後藤も「短い間隔でライブやって、この筋肉を鍛えたい。まだ誰もおらんもん、この筋肉がムキムキなひと。ムキムキになりたい!」と興奮気味に。倉本さんも「これ、テレビでやっても盛り上がるやろなあ」と。ええ、ぜひに! ジャルジャルの空恐ろしさをお茶の間で目撃したいです。
 しかしテレビ化もさることながら、まずはライブのシリーズ化、ぜひにぜひに期待しております。会場のシアターモリエールを後藤が「やりやすい」と言っていたけど、観ているほうもステージと地続きな感じが楽しくてとても良かったです。次もあれぐらいの大きさがいいな。言葉、いっぱい用意して次を楽しみにしています。

*1:形容詞も名詞も同じかたが出した言葉だったというささやかなミラクルが。

*2:衣装の白Tは使い捨てできるように安いのをたくさん仕入れていたそう。安いから生地が薄いのはわかるけど、なんでピチピチだったんだろう。おかげで2人の薄い体の薄さがきれいに出てて良かったけど。

*3:猊下は面倒なのでやっぱり愛を込めて呼び捨てで書きます

*4: https://twitter.com/jarujaruconte/status/490140476427608064