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小早川

日記

 昼から、パズル部のさやかさんとカゲヤマさんと秋葉原に。さやかさんたちがとある店に行くと聞いて、わたしもついて行きたいと申し出たら、それが秋葉原にあるとのことだった。
 秋葉原駅に降り立ったのは十数年ぶりで、その行かないあいだに特殊な文化で太く有名になった街なので、さぞかし、さぞかしなのだろう、とすこし覚悟をして出向いた。が、土曜の昼だというのに驚くほど秋葉原の街には人がいなかった。おそらく皆、寄り道などせずおのおのが目的地(屋内)にいるのだろう。なんとなく人が集まりなんとなく横にひろがって歩いたり立ち止まったりしている渋谷や新宿とは違う。なんとなくしゃなりしゃなりと日傘さしてる銀座とも違う。いや日傘さす身にしてみればなんとなくとは言語道断、あれは武具の一種なのだが。日射しに対する。
 道に人はいないけれど、たしかにここは人が集まる街であり、特殊に景気が良いらしいということが、往来の看板広告のにぎやかさでわかる。近ごろはどんな繁華街の目立つ場所でも"広告主募集"と書かれた看板があり、景気の悪さを視覚的に感じていたところにこの看板広告の充実ぶりはパラレルワールドであった。たとえば、ビートたけしの顔アップのモノクロ写真に"DMM.com"と企業名だけが入った、写真のちがう2種類の大きな看板が、ひらけた交差点に並ぶ2つのビルにそれぞれ掲げられていたりするのだ。

 さやかさんに案内されるまま、アナログゲーム専門店Role&Roll Stationとパズルショップ・トリトへ。さやかさんもわたしも、カードゲームと雑誌『パズル通信ニコリ』を買う。ニコリは、パズル部として夏休みのドリルがわりにやるのだ(やるかな)。
 2時間ほどかけてゲームやパズルを物色し、熱心に遊ぶことを考えたのでとても喉が渇いていた。トリトを出た道の先にローソンを見つけたので「飲み物」と思って駆けて向かう。うしろでさやかさんが走らなくていいよと言っている。ローソンで3人とも飲み物を買ってごくごく飲んだ。
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 馬喰横山("ば"で強く息を吐く)に移動して、こちらもさやかさんの案内のもと、好いセレクトショップなどを覗きつつ、保倉友子シャツ展 +軽食W0B0R0/W0B0R0原画展へ。軽食W0B0R0のごはんを期待して行ったわたしだが、並べられたシャツが一目見て着心地のよさまでわかる素敵さで、即、どれを買うか悩まされた。悩んで手にとるたびその手触りにもうっとりする。
 シャツを注文して一安心していると、キッチンからお母さん、ではなく軽食W0B0R0・渡邉佳純さんの「カレー食べるひとー」という声。その場にいた来場客約10人が全員手を上げ、粛々と配られるレモンドライカレー。家だ。居合わせた知らない人とも、うまい、うまいですねと言い合いながら食べる。ヨーグルトソースがかかりレモンピールが見え隠れする、セロリとカルダモンが効いた、夏の大人のドライカレー。これはすぐにでも何度でもまた食べたい。レモンドライカレーにはじまり、ごぼうの冷たいポタージュ、パイナップルの生ハム巻き、しいたけのオイル漬け、野菜盛りのツナとオリーブのディップ。野菜盛りにはサツマイモやゆで卵も入っていて、味と見た目だけでなく食べでも重視の軽食W0B0R0。
 こんどはミニコミ誌『W0B0R0』の原画をじっくりと(会場は1人住まいの部屋ほどの広さなのに楽しみが盛りだくさんだ)。と、ここで『W0B0R0』を読んだことがある人に訊きますが、あの表紙や銘菓や愛車の絵って、写真を味わい深く加工してるんだと思ってませんでした? わたしは思ってました。思ってたから本当の手描き・手塗りを生で見て気が遠くなった。わたしさっきこの絵描いた人のめちゃめちゃ美味い料理たべた……。なんやねんこのひと。
 絵は、たしかにどれも写真のような精巧さで描かれながら、だけど彼女からあふれる対象への愛が満ち満ちている。表情の切り取り方、色の重ね方でそう思う。そしてこれらが間違いなく手描きであることを裏づけるのが、愛車ラシーンのボンネットに手をのせご満悦そうな小説家・長嶋有の似てなさであった。いろんな人が長嶋有の似顔絵を描いて、そのどれもがちゃんと似ているのがすごいと先日ここに書いたが、仕事で頻繁に顔を合わせているだろうデザイナー・渡邉佳純が描いた長嶋有があんまり似てないというのがなんだか面白かった。わたしはそもそも絵を描けないのでわからないが、たくさん会ってる人だと情報が多すぎてかえって筆が迷うのかもしれない。あと菜々緒も似てなかった(菜々緒を描いた絵もあった)。たぶん渡邉佳純は菜々緒に会ったことがないと思うが、テレビで見るより健やかでいい女に描かれているのがなんだか似てない理由だろう。菜々緒はもっと何かに怯えた顔をしている。

 会場で偶然あった雪さんも誘い、4人で会場すぐ近くのカフェ・イズマイでコーヒー。ここのコーヒーがまた、器のなかみをじっと見てしまうほど美味しい。きょう行くとこ見るもの話すこと、口にするもの全部いいなと思う。
 機嫌好く、きょう買ったいろいろをガサゴソとテーブルに並べて自慢写真を撮ろうとするわたし。それを見てスッと、自分が買った『ニコリ』とゲームも添えて画を盛り上げてくれるさやかさん。優秀な自慢アシスタントである。
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自慢げに並べているが左側の『ニコリ』と『小早川』は自慢アシさやかさんの。

 4人揃ったので、さっき買ったゲームをやってみようかと、『小早川』を始める。これが、なかなかに、なかなかなゲームで、キャッチコピーの《単純。でもない。》が、まったくその通り。たちまち真剣にゲームに興じた大人4人だった。1局10分ほどを2回やったが、2回戦とも、なんと最後に逆転してわたしが大勝した。途中、カゲヤマさんが戦局についてなんだか頭の良さそうなことをいろいろ言っていたが、2回戦とも、わたしが勝った。戦局を読むという発想がまずない、暗算もあやういわたしが。ゲームに勝つなんて経験は32年間生きてきて片手で数えられるぐらいしかないので、わたしは一気にこのゲームに愛着がわいた。『小早川』持ち主のさやかさんに「それでまた遊びたいからいつも持ち歩くように」と無理を言い渡す。
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 ところで小早川ってなんだろうね、ゲーム作者の名前でもなさそうだし、という会話に雪さんが「戦国武将に小早川某っていたよね」さやかさんも「ああ、だからパッケージに家紋みたいのが」とアカデミックな会話。ふーん。でも2回戦とも、わたしが勝った。