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『ダメをみがく "女子"の呪いを解く方法』

津村記久子

 これ、タイトルがアレなのと対談相手が「たしか"草食系男子"って言葉のひと…」っていうわずかな情報だけで食わず嫌いしてたんだけど、津村記久子TL*1 *2 *3ですごく評判良かったので買ってみた。
 とても面白かったです。自分を磨こうと向上心を掲げてるわけでも、どーせダメですからとふてくされてるわけでもない。「あなたもわたしもみんなある程度はダメなので、少しでもしんどさを減らしてたのしく働いて生きたいですね」というような内容を、口の達者な40代編集者と超絶に話が面白い30代小説家があーだこーだと話しているという具合。読み終えて「おもしろい飲み会に参加したなー」みたいな気持ちが湧いた。
 メンタル変えるよりボールペンを変えて3日間でも自分が気分良く働けたらもうけもの、など、働くじぶんを「仕事するのもわるくないよ」とごまかすための工夫が盛りだくさん。崇高じゃない(からすぐに取り入れられそうな)生きる知恵が楽しかった。Windowsのフォント「メイリオ」について2人が1ページ分ぐらい盛り上がってて、そんなに良いのかメイリオ、とわたしもさっそく職場のパソコンのエディタをメイリオに変えてみたもの。
 で、そうやって新しいボールペンの書き味やメイリオへの変更に勤しむことで、いらぬ心配をしたり人を妬んだり恨んだりする暇が減る、幼児性の高い人は長く働ける、と。なるほどね。
 
 人とのつきあい方についても、これ読んでおくと人間関係の沼にはまりにくくなりそう。「いい人に見える人はいい人じゃない」とか、人の心に取り入ろうとする人のかわし方とか、32歳のわたしでもまあまあ心当たりある。心がざわついたらともかくいったん離れろ、逃げろと。それは、わたし、得意。
 本音や内情を打ち明けるのだけが友だち関係じゃない、というのもわたしは救われる話だった。津村さんには盆踊りの誘いだけ連絡くれる友だちや、岡村靖幸のネタをメールしてくる友だちなどいるそうで、その関係すごくわかる。べったりしなくていいってわかってると、次また気が向いたときに誘っていいんだ、と思えるからむしろ長続きするよね。そういうふうに、おのおののご機嫌の頂点がコミュニケーションのきっかけになるのは素敵だ。それで関係が安定したときにポロッとお互いのネガティブが漏れても動じずにいられるし。

 タイトルに「"女子"の呪いを解く方法」ってあるけど、これ男性が読んでも充分に面白いと思う。タイトルで手に取らない人ぜったい多いんじゃないかなあ。津村コンプリート目指してるわたしでさえ躊躇したもん(いや、津村記久子作品を好きだから躊躇したのかも)。でもこういう本はキャッチーなタイトルにするしかないのかな。

 対談上で、津村さんは、年がひとまわり上の深澤さんの話が自分の考え方と違うとき、おもねらないけど拒むことも流すこともなく、これまでの人生でちゃんとコミュニケーションに失敗してきたのがわかるような手つきで慎重にかわしているのが、この本で2人が挙げているどのライフハックよりもわたしをハッとさせた。深澤さんはご自身でバブル世代だと言ってるだけあって、いや、世代だけでなく職業や年齢や元からの気質にも由来するのだろうけど、「わあ……このひと生きるの大変だったろうな」という強烈な話しぶりをするところがあるので*4、そういうのに読み手のわたしが気圧されかけてるところで津村さんがサッとかわしてて「あ、こう言えばいいんだ」と何度も教わる。
 特に対談の後半あたりだと2人がすっかり"意気投合"しているから、深澤さんも気を許してわりと分厚めな発言が増えてくる。たとえば深澤さんが「サブカルは女性差別や女性憎悪を内包している」みたいなことを言い切ってしまう場面があって、それへ津村さんは「女性差別……?」と単語を復唱して深澤さんが何を言いたいのかもう少し聞いてみようとする。それで深澤さんが詳しく熱っぽく見解を話すと津村さんは「(差別だと受け取れる内容は)その部分しか面白くなければそれまでだし、ちゃんと腕があったうえで流れで取り入れるなら、それはそれとして考える。ただ、運よく自分が支持する人には女性差別的なことを言わない人が多い」と答える。なんでかこのやりとりがとても痛快だった。
 他にも、津村さんの仕事のしかたに深澤さんが「それはやっちゃダメ」と笑いながら否定するところがあったり、東の女は西の女性に比べてこうだから西が羨ましいとか言うところがあって「それは東西云々じゃなくてあなたがそういう人を引き寄せてるだけでは……」とカチンときたが、わたしが深澤さんをプロフィールだけ見て食わず嫌いしていた直感はまあまあ当たってたなあと思った。それは対談前半で深澤さんが語っていた「嫌な予感は当たるが、当たったときは後悔するのではなく、自分の勘は間違ってなかったと勘の精度の高まりを確認すればよい」につながる。深澤さんが、まだかしこまってる前半で言っていることと、すっかり気を許している後半でやってることが違うのが人間としてリアルでその点もおもしろいです。

 ところで何度か津村さんの発言に「(しゃくれながら)」とあるのを見て、津村さんがおどけてみせてるのとかも想像できて良かった。わたしはまだ動く津村さんを見たことがないけど、芸人さんみたいだなあ、と。これ「(しゃくれながら)」をちゃんと文に起こした人がすばらしいな。

*1:"津村記久子"でTwitter固定検索かけてましてですね

*2:だって津村記久子公式情報がインターネット上に見当たらないんだもん

*3:みんなも似たようなことやってるでしょ?

*4:この対談が本になるまでもちろん内容については深澤さんもしっかり携わっているでしょうから、この強烈ぶりも本人承知のうえで残してるんだと思う。そういう点で深澤さんはすごい、と思った。