ジャル!シティ!

 客入れのBGMはカーペンターズ『Top of the World』がエンドレスで。他意はないかもしれないが「世界の頂点からの景色を見せてあげるからね」と、あの才能のある好青年たち4人に言われているようで、始まる前からもうキューンとしていた。

刺激になります
新商品の緑茶飲料のキャッチコピー会議。ゴトウが見込んだ後輩社員3人(福徳、金子、阿諏訪)を集めて4人で案を出し合うが、ようすがおかしい。4人で話し合ってるのに、ゴトウが何を言っても後輩ら3人に「刺激になります!」「そういう精神、忘れたくないなあ」「盛り上げてくださってありがとうございます」とかわされ、会議の意見として扱ってもらえない。
二日で
二日前にパジャマで外出しそのまま行方不明になっていた男(後藤)が、ぼろぼろになって帰ってきた。パジャマのあちこちが破れてケガもしているだけでなく、髪とヒゲもぼうぼうに伸びている。二日で。男は不在にしていたこの二日間のことを説明するが、それは人ひとりの一生分を超える波瀾万丈の二日間であった。男の恋人(福徳)とともに帰りを待っていた男の後輩(金子)は愕然とする。しかし恋人の二日間もこれに劣らぬ激動ぶりで、後輩は愕然としつづける。
葬式
おじいちゃん子だった高校生の少年(金子)。今日はそのおじいちゃんの葬式。少年は高校生だから制服の学ランで葬式に出席する。いつまでも棺の前でめそめそする少年のもとへ、父(阿諏訪)、母(後藤)、坊さん(福徳)が集まるが、全員が少年と同じ服装で、少年は悲しみを忘れ戸惑う。
美容院
先輩美容師(金子)に教わりながら接客を試みる新人美容師(後藤)。だが、入ってきた客(福徳)は、全身タイツを着ていてサルのような動きをするので、新人は動揺する。……というコントを演じる3人だが、しかし観客は、このコントのエキストラ美容師である阿諏訪のふるまいから目が離せない。阿諏訪が持つバリカンは作動音を鳴らしていて、相手の客役のエキストラの頭からは、本当の髪の毛がみるみる刈られていっている。福徳ら3人は不服そうにコントを中断する。
二回めだから
あすの全校集会で披露予定の漫才を練習する高校生男子2人(阿諏訪、福徳)。転校生のフクトクは前の学校でも漫才をやっていたそうで、自分は笑いに詳しいのだと自信にあふれている。そんなフクトクに素直に感心し、おかげですごく面白い漫才ができたと喜んでいるアスワ。ふとそこへ同級生のゴトウが通りかかる。ゴトウに練習の成果を見せる2人だが、ゴトウはちょっとどうかと思うほど笑い転げるので、嬉しいながらもまともにネタができず2人は漫才を中断。改めて最初からネタをやり直す。すると、さっきは何を言っても笑い転げていたゴトウがこんどは眉ひとつ動かさない。「さきほど笑い転げたのは、同級生2人が漫才をしているということ自体の非日常性がおかしかったのであって、今は二回めだから冷静にネタを観てしまった」などといって一切笑わぬゴトウは、しかも2人の漫才について辛辣な意見をぶつけだす。
初日感
本屋バイト初日の青年(金子)。勤務前に、自分と同様に出勤初日らしい人(福徳)と緊張を共有しあっている。そこへだるそうに出勤してくる男(阿諏訪)。男はふてぶてしく机にうっぷしてみせたり、初日の青年を見つけるとだるそうながらも店のことをいろいろ教えてくれたりする。彼はきっとこの店に長く勤める先輩従業員なんだろう、と思って素直に男の指導を受ける青年だが。
ゆずれない席
混雑した電車で座っている青年(福徳)。だが気づくと自分の目の前に杖をついたおじいさん(後藤)、松葉杖の人(金子)、立ったまま寝ている青年(阿諏訪)が立っていて、誰に席を譲るべきか悩み追い詰められる。
銃撃戦
2vs2の銃撃戦。手を銃の形にして、口でバンバン言い合う4人。誰かが撃たれるたびに、おもしろげなことを言いながら倒れ、そしてまたすぐに復活する“銃撃戦ごっこ”である。しかし金子が撃たれた瞬間、彼の胸から赤い血が出る。指のピストルで撃ち合う“ごっこ”なのに、血のりを使うのはどうか。福徳ら3人は不服そうに銃撃戦ごっこを中断する。
桜の木
春休みが終わると、ピッチャーマウンドに立派な桜の木が立っていた。これでは野球の練習ができない、と困って桜を切ろうとする野球部員ら(阿諏訪、金子、福徳)だが、それを見た用務員のおじさん(後藤)は「桜越しでも球は投げられる」といって桜の木をよけながら豪速球を投げるという奇跡のピッチングを披露する。僕たちに野球を教えてほしい、と野球部員らに頼まれて引き受けるおじさんだが、練習につきあってみると、桜の木の問題以前に、野球部員らはあまりにも下手ですぐサボろうとする。
エンディングトーク
座りのトーク。じつはこの場で初めてまともに話をするというジャルジャルうしろシティ。悠然とした後輩のうしろシティと、それに戸惑う先輩・ジャルジャルのギクシャクトーク。
カップル
カップルの多い公園に訪れる男(阿諏訪)と女(金子)。そこへ現れるブリーフ姿の変質者(福徳)。変質者の登場に怯える男女だが、それよりエキストラのカップルの後藤が相手役の女性とディープキスをしていることにどよめく観客。気がそがれるほどの熱いキスに困惑した福徳ら3人はコントを中断するが、後藤はキスをやめない。

※コントタイトルはここに書くにあたってわたしがつけたものです

 幕間BGMはモンキーズ、終演後にはカーペンターズ『Yesterday Once More』が流れた。

 新作コント10本。どのコントもネタの設定や仕掛けがみごとで、そして4人とも、まずそのことに心奪われるほど演技が巧い。先輩の意見を厚く感謝しながらホワイトボードに書かないでいる金子(『刺激になります』)、同級生らの漫才を困惑と怒りと心配ないまぜの顔でたしなめる後藤(『二回めだから』)、もてはやされていたのに分が悪くなって次第にベソをかきながら暴力的になっていく福徳(『二回めだから』)、桜の木を受け入れられず笑みを残した顔のまま横目でチラチラと見やる阿諏訪(『桜の木』)など、瞬間瞬間に「わ、巧い」とハッとした。

 各々の演技もチームワークも確かな4人だったのに、エンディングトークで椅子を並べて座ったとたんギクシャクしだしたのが、また良かった。今回の公演はスラッシュパイルが企画した組み合わせで、ジャルジャルうしろシティ同士はほぼ面識がなかったらしい。かつて『キングオブコント』で、審査員席にいたジャルジャルの後藤が、決勝戦に出たうしろシティについてコメントを求められ「一緒にメシでも行きたいっすね」と言ったそうで、それを受けてか、放送が終わったあとに金子が後藤に近づいてきて「メシ、ホントに行こうよ」と声をかけてきた、と。初対面なのにもうフレンドリーな金子に後藤は、「自分らはうしろシティより芸歴が長いと思っていたが、勘違いだったのか」と怖くなり、接点もそれ以来ないまま、このたびのジャルジャル×うしろシティの企画に声がかかった際にはまだうしろシティが謎めいたままだったので「いったんお断りした」んだそうな。金子は「悪気はないんだけど、たまに無意識に先輩にタメ口きいちゃう」またやっちゃったーと笑っていた。阿諏訪は阿諏訪で、稽古中の悠然なふるまいがあまりにもスターで、ジャルジャル2人をたじろがせていたそうだ。たしかに阿諏訪はつねにソファに沈んでいるような笑みをたたえているし、金子は子どものようにキョロキョロとしては不意に会心の笑みを見せるあどけなさがある。2人とも、ただいるだけで見とれさせるオーラがあるのだ。オーラを放ちながらうしろシティの2人は「ジャルジャルさんに憧れていて」「今回の企画も話がきたときにやったーって喜んで」などと話していた。
 うしろシティの天衣無縫さに会場が沸くなか、2人のうしろの舞台下手袖から誰かの手が高速で振られているのが何度も見えた。おそらくスタッフによる巻きの合図だと思うが、それがはっきり見えているはずの舞台上手側のジャルジャル2人はそのうえで、うしろシティのスターエピソードをふくらませ盛り上げつづけている。これはわたしが舞台上手側の最前列に座っていたから下手袖が見えただけで、ひょっとしたら逆側でも同じことが起こっていたかもしれないが、この、合図を流してまでうしろシティの話をふくらませたジャルジャルが、芸歴だけでなくちゃんと“兄さん”に見えて、いつも関東のテレビでは先輩芸人らのうしろで見え隠れするジャルジャルを追っていたこともあり、なんとも胸が熱くなった。そして次々とエピソードをくりだすうしろシティもそれをふくらますジャルジャルも、今この4人でつくる時間をつづけようとしているんだ、と思えてぐっときた。何度めかの巻きの合図と話の切れ目を見て福徳が「じゃあ、最後に4人で交差に握手しよう」と提案してトークは締められた。

 今のジャルジャルは、佇まいから美しい。もともと愛嬌と品のある2人だが、それまでサルのように飛んだり跳ねたり騒いだりしていた彼らは、主演映画『ヒーローショー』を経てからか(わたしがそれを観たからか)、表情や言葉つきや身のこなしに重力を感じさせるようになった。それで彼らは引力を増した。コントでも、ネタの仕掛けと思わずに、その演技を見ていたくなる。10周年記念とかいう金髪もぶじ黒髪に戻り、今は大人の男として本当にかっこいい。ステージの照明がつくと、後藤も福徳も、その光を反射しているのではなく、みずから光を放っているかのようにそこにいる。
 ネタをやるうしろシティを生で観たのは今回が初めてだった。今年3月、うしろシティが出演した『共感百景』を見た帰りの電車で、会場でもらったうしろシティ単独のフライヤーを眺めていると、お笑いライブに熱心に通う友人が「うしろシティの単独のチケットはいつもすぐに完売する」「彼らの人気のありようは松竹芸能の、ひいてはお笑い界の希望の光である」と教えてくれた。希望の光。それがどういう意味なのか、電車の中なので詳しくは聞かなかったが、とにかく見目好い以上に惹きつける魅力があるのだろうと、ぜひライブを観てみたいと思っていた。

 光が集まって、そりゃもうまぶしく豊かなステージだった。10本のコントはいずれも4人に役があって、4人はすっかり役割を棲み分けていた。このライブが1回限りの公演であることがじつに意外に感じられる。ずっと観てきたような安定感。観客も主催者ももれなく「次回」を思ったことだと思う。
 ロビーには、ジャルジャルがレギュラー出演する『めちゃイケ』からお祝いの花が届いていた。それで、わたしが見逃しただけかもしれないが、花はそれしかなかった。開演前はその花の数を見て特になにも思わなかったが、終演後、花の香りが充満していないロビーに出て「あれっ」と思った。いや、彼らの年齢や芸歴や関東のテレビでの仕事ぶりを思えばそのロビーの状況は当然なのだが、なんだかステージの彼らの華々しさにすっかり打たれて、売れっ子スターの公演のロビーに出るんだと、嗅覚が期待していたのかもしれない。でも我々はやがて匂い立つロビーに出られるだろう。こんなに確かなユニットが一夜限りのわけないし、周りが放っておくはずもない。

 4月27日(日)放送の『爆笑問題の日曜サンデー』に、うしろシティとハライチが出演していた。新番組『デブッタンテ』の宣伝で、その4人の中のハライチ澤部のなじまなさを爆笑問題の田中さんは「ビートルズの中に1人、たまがいる」と言った。その後、阿諏訪がカッコつけたがりであると他3人が訴えるくだりで金子が「だから阿諏訪はさっきビートルズって言ってもらえたとき、まんざらじゃない顔してました」と報告した。
 ジャルジャルの単独ライブは開演前BGMがビートルズである。2人がビートルズを好きだから、らしい。
 なんとなく、つながった、と思った。ビートルズのようにひとつのジャンルとなるほど、この4人が世間から求められるようになっても構わない。

ところで

 至極どうでもいいが上記を書くにあたってそれぞれの呼び方に悩んだ。
 思うだけでデレデレになるほど愛しいジャルジャル2人のことは愛をこめて「後藤」「福徳」、まだ掴みきれていないうしろシティの2人を「金子さん」「阿諏訪さん」、ハライチ澤部は「ハライチ澤部」、爆笑問題の田中さんは「ウーチャカ」と呼びたいのが本当の気持ちだ。どうでもいい。