『雑誌の人格』能町みね子×祖父江慎トークショー

  • 12/14(土) 16:00〜 @VACANT

※メモ取らずに聞いてたので間違いあるかも。ほかにも思い出したら追記します。
イベントの始まりを待ちながら友だちとおしゃべり。私が「この本の装丁で一番驚いたのが、各章4ページめに前ページのイラストの端が印刷されてるやつで、『伝染るんです。』を初めて手に取ったときの“これは事件では”感があった」と言うと、友だちも「蛍光色使ってるのに驚いた。インク代高くつくだろうに、本をこの価格で売ってるのすごい」など、各々の『雑誌の人格』装丁に関する驚きを披露しあう。
時間になると特に紹介もなくいつのまにか能町さんと祖父江さんが前方に座ってていつのまにか始まった。

  • 「祖父江さんが大好きで……」と祖父江ファンになったきっかけとして『伝染るんです。』の装丁の話を始める能町さん。(いま私たちもちょうど『伝染るんです。』の話してました!) 有名な『伝染るんです。』の装丁だが、能町さんはその3巻が特に好きなのらしい。カバーのめくったところ(奥付だったかな)に、この本の乱丁落丁に見えるあれこれはどれも意図的なものであるとしてデザイン仕様のリストがずらーっと書かれており、“以上に当てはまらない乱丁落丁は担当・後藤まで”と締めくくられている3巻がすごかったと。祖父江さんいわく「1巻をああいうふうに出したら、問い合わせや返品がすごくて、3巻でいろいろやろうとしたとき編集の後藤さんに“デザインだとわかるように示してください”って言われたから、書いたの」。
  • 能町さんは自著の出版の話になるたび装丁に祖父江さんの名前を挙げてきたが「どの出版社も(おもに時間的な懸念で)いい顔しなかった。ほとんどが打診に至らず編集で話が止められてた」と。しかし今回は勝算があり「装苑さんはこういう読み物系の本を出し慣れていないだろうから、希望出したら考えてくれるだろう、と。案の定『じゃあ電話してみます』とすぐに動いてくれた」(能町)
  • 『雑誌の人格』装丁の話。デザイン実作業をおこなったコズフィッシュ佐藤亜沙美さん登場(祖父江さんはアートディレクター)。佐藤さんが出した装丁案がスクリーンに映し出される。カバー裏に勢力図をのせる案、雑誌のように中綴じする案など。なかでも「本当は、まるで雑誌の1ページをビリビリと破り取って本に巻き付けたような(斜め波型裁断の)カバーにしたかったんですが、それだと本体が出て汚れやすくなるから更にビニールかけないと、って」(佐藤)というアイデアに祖父江イズムを感じる。
  • 各“雑誌”のプロフィール(年齢、職業、居住地、家族構成、ほか)を入れたのも佐藤さんの案。 佐藤「能町さんのファンは装苑の連載時からチェックしているだろうから、単行本だけの楽しみを入れたかった」 プロフィールはすべて能町さんが考えたとのこと。 祖父江「仕事増やしちゃってすみませーん」 能町「いえいえ、こういうの考えるの大好きなんです〜」。
  • 手描き雑誌ロゴ40種はすべて能町さんが描いたもの。佐藤「版権の問題で、本物のロゴは使えず手描きにしようと思ったのですが、私が描くと単なるトレースになってしまって、能町さんにお願いしました」 祖父江「仕事増やしちゃってすみませ〜ん!」 能町「いえいえ、楽しかったです。2〜3時間ぐらいで描きました」
  • 4ページめにイラストの端を載せている件。ふつう単行本は各ページの内容をページ内におさめるから小口が真っ白になるものだが、「雑誌のように小口に断ち切りのにぎやかな模様が浮き出るようにしたくて」(佐藤)このようにしたのだ、と。これのおかげで印刷所の人と裁断の位置を0.5mm単位で調整を繰り返したらしい。
  • 蛍光色の使用はやはりとても高くついたそうで(インク代だけでなくインク壺を使い回しできなかったり、手間がかかるらしい)、祖父江さん佐藤さんが声を揃えて「もう装苑さんからお仕事こなくなっちゃうよ〜」と言ってたのが可愛かったが可愛い話じゃないのだろうな。でもこの本の縁あって佐藤さんが次号の装苑の特集ページをデザイン担当することになったそう。
  • 雑誌『ニコラ』の話。能町「モデルのナントカちゃんを“ナントカ©”って表記するのはいいけど、おばあちゃんのことを“おばあ©”とまで書いてたのはびっくりした」
  • 『ニコラ』が雑誌として好きな祖父江さん。ニコラの表紙は、女の子たちが顔をくっつけて並び歯を見せて笑っているのが定番だが、4月号だけは1人で映ってる、と。「まだ自分に友だちができてない新学期に、仲良さそうな女の子たちが表紙の雑誌なんて買いたくないもんねえ」(祖父江)*1
  • 編集の文化出版局・吉野さんが登場。連載のフローとしては、国立図書館でその雑誌の数ヶ月分を調べ→能町さんのテキスト原稿が上がったらそれをその雑誌の担当の方にチェックしてもらい→OKが出たらイラストを描いて原稿完成……という気が遠くなるようなことを月間連載でやっているのだった。 吉野「ありがたいことに、NGを出した雑誌は今のところ1誌もありません。特に『ESSE』さんはとても喜んでくれてました」 能町「『ESSE』の人格は“生活感のかたまり”とかいって結構ひどいこと書いてるんですけどね」

トークショーは始終穏やかで、テレテレでウフウフな祖父江さんに能町さんがデレデレして、いつもより声のトーンが高くなってるのがすごく可愛かった。そして2人(+2人)の話がとにかく濃くて、本を手に取って楽しんでもらうことにここまで、ここまで思いが込められるのかと胸が熱くなりました。

雑誌の人格

雑誌の人格

*1:『ニコラ』表紙バックナンバー http://www.nicola.jp/gallery/2012/index.html たしかに2007年〜2010年、2012年は“4月号は1人” 。