ミニコミ誌『W0B0R0』3号

私の話にたまに登場するWさんという人がいる。たとえば新春!全身全霊カラオケとか空梅雨!全身全霊カラオケとか。あと名前こそ出していないが電車を乗り継いでゆかりのない小学校の盆踊り大会に来たり紹興酒限界測定会を開催したり。なんかもっといっぱいすごいのあった気もするが激しすぎて忘れた。熱が高すぎるとサーモグラフィは赤を超えて白を映すように。とにかくWさんが思い立つあそびはいつも「えっ、もうお互い三十過ぎてるのに?」とたじろぐ、だが三十過ぎているからこそ甘えが許されないマジのやつばかりだ。とにかく全力のひとである。
そんなWさんこと渡邉さんが企画構成取材執筆デザインイラストその他諸々(を全部ひっくるめて「編集」)を執りおこなう、ミニコミ誌『W0B0R0』の3号が出た。ヲボロと読むそうだ。
わたしはこの中の『tan-ken! hack-ken! ぼくのまち』コーナーで、阿佐ヶ谷の案内人として少しだけ参加している。参加というか、ご近所セレブママのザンスちゃん*1とともに渡邉さんを連れて地元を練り歩きジェラート食べたりメンチカツかじったり昼酒を飲んだりしただけであるが。だけであったはずなのに、誌面に載った渡邉さんeyeの阿佐ヶ谷はなんとおもしろそうな街だろうか。いや実際すごくおもしろい街だけど、ヨソサマには伝わらないスメバミヤコ的なものだよな……と思ってた魅力がヨソサマの手でこんなふうに紹介されて本当にうれしい。どの街ガイドにも載っていない、暮らす阿佐ヶ谷の一片がここにあります。渡邉さんありがとう、これは住人として「ぜひ見て!」と自慢したい地図。ぜひ見て!
で、あの、『W0B0R0』サイトを見ていただいてわかるとおり、ちょっとこれ、ゴイスーの執筆陣と企画の数々でしょう。巻頭特集の「鯨」は、捕鯨問題など深刻なものではなく“生活のなかの鯨”として、鯨の解体見学(作業工程図解つき)、鯨の食べかた十二番勝負、フジモトマサルさんによる“本で読む鯨”、街にあふれる鯨……とまさに鯨並みな読みごたえ。
そして松田青子さんエッセイ『小さく納得いきません』に見える眉のふくらみ、小特集『四角い布一枚』にただよう“暮しの手帖”の香りと岡田あーみニズム、突然の迷路、女の子好きの敏腕編集者による映画評と見せかけ女の子の話『ツタヤ100円映画評』、全力渡邉さんによる全力の不服&感心&憤りエッセイ『泣いて笑って怒って食べる』、漫画ライター門倉紫麻さんの人生案内『しま姉に訊け!』(これホントすごい、毎度読むたび全身の血のめぐりが良くなるのがわかる)、中村さやかさんの名前エッセイ『名前をつけて保存する』、ブルボン小林さんの追悼エッセイ『死んでから読め!!』、“パンを8斤焼き、”から始まる『20人前クッキング』……と、読み飛ばせるコーナーなど1つもない。ドレドレ……と読み始めたが最後、思わず一気に読まされてしまう濃さだ。このゴイスーな面々が集まるのもひとえに渡邉さんの人柄と有能さからくる人望の成せるワザである。
特筆すべきは、ってぜんぶ特筆したいが“[特]別に愛しているので[筆]述する”という意味でブルボン小林『死んでから読め!!』は、あなたが死ぬ前に、というか今すぐに読んでほしい。1972年生のブルボン小林(=長嶋有)が書く“ビートたけし”は、不要に崇めたりはしないが、ビートたけしの独特さの取り出しかたが“やっぱりすごいんだ”と思わせる。テレビっ子ナガシマ読者としてはそろそろ、“長嶋有が見るビートたけし”をまとめていかなければいけんなと勝手に思っております。悪いけど『タモリ論』よりずっと読むべきものになる。自信ある。読者として。

*1:ちなみに今はご近所じゃない。あんなに私と相思相愛だったのに挨拶もなくどこかへ引っ越していた。なんかいろいろあって大変らしい。聞けないでいる。