百人一首と母

キクさんの百人一首*1で、自分の子どもの頃のことを思い出したので書きます。
私がひらがなを読めるようになったあたりからか、我が家の風呂場の壁には百人一首を書きだした紙が貼られていました。書いて貼ったのは母です。歌は、シャンプーしているとき以外はつねに視界に入っていました。油性マジックで書いているとはいえ、風呂の湯気で紙はぶわぶわになり、次第にゆがんでいった百人一首は何かの呪いのまじないにしか見えず、幼い私にとって風呂の時間は恐怖でした。
小学三年生になって、まわりのともだちが漫画雑誌『りぼん』を読みはじめたので、私も同じように親に「『りぼん』買って」とねだったのでした。すると母は「じゃあ『りぼん』1冊につき百人一首を10首ずつ覚えていきなさい。お母さんの前で10首暗唱できたら1冊買ってあげる」と言い、『りぼん』ではなくまず『まんが百人一首事典 (学研まんが事典シリーズ)』を買い与えてくれたのでした。私はやむなく、天智天皇の「秋の田のかりほの庵の苫をあらみ 我が衣手は露にぬれつつ」から覚え始めます。『りぼん』は月刊誌なので毎月発売日の前夜はつらかったのを覚えています。
1回10首なわけですから、10ヶ月経てばこんなルールはなくなると思っていました。しかし彼女は、11ヶ月目の私の「『りぼん』買って」に対して、今度はランダムに10首の上の句の五文字を言ってきたのです。本のページに並んだ字面だけで歌を覚えていた私には太刀打ちできず、また必死になって『まんが百人一首事典 (学研まんが事典シリーズ)』を読み返すのでした。そうやって毎月の母との戦いを重ね、私にも少しばかりの百人一首力がつきました。
その力、今やっと役に立ちそうです。
キクさん、私も、札、取りたい。

*1:id:tatibana880:20061117#p2