「と、そのとき」

そういうこともあるだろう。


今朝、私は、録画した10日放送の『タモリ倶楽部』の録画を見ながら、ある印刷作業をしていた。
大量の印刷だったため、刷り上がるまでに手が空いた私は、また別の作業に手を付けた。
かねてからファックスのインクリボンが切れていたので、その詰め替え作業をおこなう。私は説明書に従って、素直にリボンを入れ替えた。
入れ替え完了後、たまっていた受信ファックスを一気に出力させる。数日前に、あるレストランへドリンクメニューをファックスしてほしいと依頼したら22ページも送ってきてくれて、その受信途中でリボンが切れたのだ。しかし日が経ち、そのあいだに私はレストランへ直接訪れることになり、結局メニューはもう不要になった。が、受信分はすべて出力しきらないとファックスのディスプレイの警告表示が消えないので、やりきるほかない。ぼさ髪の日曜朝の私の部屋に、もういらないワインリストがかしこまって流れてくる。


と、そのとき、ファックスが「ガガガガ」と叫びながら小刻みに飛び跳ねだした。そして、止まった。
何事かと慌ててディスプレイを覗き込んでも、「カバーヲアケテカクニンシテクダサイ」と言うだけ。本人にも原因はわかってないらしい。人間の私は素直にカバーを開けた。
紙送り用のローラーに、出力用紙とインクリボンが重ねて巻き込まれていた。
なぜそんな器用なトラブルを。
私はローラーに巻き込まれた彼らを引き取ろうとしたが、何重にも巻かれたらしく、強い力で引っ張ってもローラーは紙とリボンを離そうとしない。力ずくもまずいので、あきらめてリボンの一部にはさみを入れた。強引だがオペ開始である。


と、そのとき、今度は、今まで元気に印刷活動に励んでいたプリンタから「ピーピーピー」と警告音が鳴る。機械のディスプレイを見ると、「トナーガアリマセン」と訴えている。そんなはずないだろう。1時間前に交換したばかりだぜ。まぁたしかにあれから1時間で1800枚分の印刷はした。だが、トナーガアリマセンと言うのは機械の都合。1時間前に換えたアレが私の持つ最後のトナーだったわけで、こちらにもトナーハアリマセン。私の都合も察してほしい。
そうしてしばらくお互い見つめ合い、意思疎通を試みたが、まもなく根負けした私は、人間の友達にトナー購入依頼の電話をかけた。
電話に出た友達は、ちょうど電器量販店にいるとのことだった。依頼を快く引き受けてくれたので助かった。
やれやれ、と声に出して言いながらオペ途中のファックスに戻る。リボンを切って、巻き込まれた部分をそっと引き出し、本来の巻き取られ先へテープで固定する。緊急オペは成功だ。さあ、存分に、もういらないワインリストを吐き出すが良い。


と、そのとき、今までガヤガヤとしゃべり声や笑い声を出していたテレビ画面が、ブツンと音を切り真っ黒に変わった。どうやらHDDレコーダーが再生をやめたらしい。何も操作してないのに、なぜ・・・?と不思議に思いながらリモコンで改めて再生させようとする、が、きかない。リモコンがきかない。リモコンの電池が切れたわけではない。リモコンの向きがセンサー受信部を大幅に外れているわけでもない。でもきかない。
「?」の数を増やしながら、今度はレコーダー本体のボタンで操作しようとするが、もう、うんともすんとも言わなくなった。コンセントの抜き差しを何度か試しても、うんとも、すんとも。
最後に再生していた『タモリ倶楽部』は体位特集だった。
隠しためた色映像の数々が妻に見つかり、そのまま出て行かれた男の気持ち。