『陰日向に咲く』

Red Bullの効果か、またこんな時間に更新。

陰日向に咲く

陰日向に咲く

寝際に読む本を選んでいて、今夜はこれを手に取った。
先日お友だちの家へ遊びに行った際、わざとらしく「あ!劇団ひとりの本だ!面白いですか?」と、できれば貸してほしそうな感じで尋ね、お友だちの「面白いですよ、読みますか?」とのお言葉に元気良くうなずいて図々しく借りてきた本なのだった。その節はどうもありがとうございます。借り物人生。


本棚の前で、パラパラと中の雰囲気を覗いてみる。
それで、自宅の本棚の前で、第一章を立ち読みしてしまった。
第一章に「ほぅ、」と感心したところで振り返ると私のベッドがある。
座って読んでいいことに気付いて、ベッドに腰掛けた。
2時間強。
寝転がりもせずに、仮座りのままで一気に読みきった。


なんだかね、劇団ひとりの単独ライブを観たような気分。
といっても私は彼のライブに足を運んだことがないのだけど、今までテレビで見てきた彼のネタの雰囲気と、この本の文体や構成から、まるで劇団ひとりが語っている姿が浮かんできて。
短編小説が集まっているのだけど、その主人公がサラリーマンであっても若い女の子であっても、劇団ひとりが演じてるのを描いてしまう。彼が、長く語り続けて、ときに声が枯れ気味になるところまで、いつか観てきたように思い出される。


また、このライブが良くできてるんだ。
彼が、声色と立ち姿だけでそれぞれの主人公を演じ分けるのが見える。
何もない、素の舞台に立つ彼をピンスポットが照らしている。
私はこの日のアンケートになんて書いてきただろう。


ライブの帰り、もし同行の友だちが入れば、どちらからともなく「お茶していきましょうか」ということになったと思う。
早くこのライブの感想を言いたいし、聞きたいから。
お店に入ったら、劇場でもらったチラシの裏なんかに、ライブの構成を整理して書き並べたりして。
イッセー尾形は日常の会話の片端を見せているわけだけど、劇団ひとりのそれは“対観客”の独白だと思うんですよねっ」とか、呑んでもいないのに今見つけてきたような勝手なことを言って、「だから厳密にいえば、彼の芸は一人芝居という枠におさめられないと思う」とかも言って、うんうん、ってうなずいてもらったりして。
幸せだ。



本の巻かれた赤い帯には「泣かせます」系の推薦文やコピーが並べられているけれど、涙もろい私が、今回ばかりはまったく涙腺が緩むことはなかった。
「泣ける」が、この本に対する唯一最高の評価ではない気がするんだけどな。